予想を重視した業績分析
実績ベースの業績に関する決算分析は、【3企業業績の推移を比較】2018年3月期中間決算 ソニー・トヨタ・ソフトバンクを分析で行いました。実績ベースの業績をきちんと理解していくことも重要ですし、ここで述べるように予想業績を理解していくことも相場の先読みでは重要になります。
12月決算企業の2017年12月期決算発表及び定時株主総会は終わり、2018年12月期通期予想も出そろっています。いくつかの上場企業と大手証券会社の業績予想を分析していくことにします。
日本マクドナルド(証券コード:2702):鶏肉問題を乗り越え回復の途上
決算短信:https://ircms.irstreet.com/contents/data_file.php?template=1549&brand=74&data=224158&filename=pdf_file.pdf
月別売上高増減率(2018年3月まで):https://ircms.irstreet.com/contents/data_file.php?template=1553&brand=74&data=226898&filename=pdf_file.pdf
実績は2017年12月期、予想は2018年12月期
単位:百万円、()は前年同月比増加率
最終利益は当社(親会社)株主に帰属する当期純利益
2017年12月期決算業績は、増収増益という理想的な伸びです。2014年に鶏肉問題による業績悪化があったため、そこからの回復途上にある状況です。営業・経常利益伸び率は150%超、最終利益は350%程度に及びます。最終利益は、鶏肉の調達先だった企業のグループ会社から受け取る和解金による特別利益(25億円弱)の影響が大きいと言えます。
この好業績はあらかじめ予想されていたため、決算発表後の株価は上昇しませんでした。つづいて2018年12月期予想業績を見ると、売上高・営業利益・経常利益は増収増益予想ですが、特別利益が大きく下がるため純利益減少を見込みます。
こちらに関しては好材料と判断され株価は上昇しました。マクドナルドでは、売上高伸び率5%以上、営業利益・経常利益伸び率10%以上を目標としていますが、その目標に沿った予想を立てています。なお、Yahooファイナンス等に掲載されているアナリスト(コンセンサス)予想は、経常利益予想22,100百万円(12.1%増、2018年4月10日現在)ともう少し強気です。
また2018年1~3月期の第1四半期経常利益アナリスト予想は、6,900百万円(2018年4月10日現在)であり、5月に発表される第一四半期決算の経常利益がここに届かないと株価下落の恐れがあります。
また売上高や利益伸び率とともに掲げているROE【自己資本利益率=最終利益/(株主資本+その他包括利益累計額)】目標は、10%以上となっております。実績ベースでのROEは、18.52%と非常に高いと言えます。
ただ、特別利益が計上され2017年12月期純利益の水準が高いこと、鶏肉問題で2014年・2015年度に巨額の赤字を計上し自己資本の低下を繰り返してきたことで、一過性の高い数字になっていると言えます。
2018年12月期は純利益が減少するため、予想ROEは15.03%となりますが、これでも10%を上回っております。ROEの観点からは理想的な数字になってきています。ROA【総資産利益率=最終利益/総資産額】は実績12.24%・予想9.94%とこちらも理想的な数値となっています。
マクドナルドの将来を占うその他の判断材料として、月別売上高前年同月比増減率があります。利益は3カ月ごとに公表されますが、売上高増減率だけは毎月公表されるので、こちらも推移を見ておくと株価の動きの参考になります。
2018年1月:13.1%増・2月:4.9%増・3月:9.7%増で、ここまで見る限りでは、予想売上高伸び率6.1%増は達成できそうに感じます。ただ2月が1月に比べて鈍化したので、2月分発表後には(短期的には)株価の下げ要因になります。
電通(4324):2年間は利益追求より働き方改革優先
決算短信:http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1556342
次に電通ですが、2015年までは3月決算企業でした。2015年4月~12月の9カ月に短縮した事業年度を経て、12月決算に移行しました。
海外には事業年度が暦年(1月1日~12月31日)しか認められない国もあり、海外展開している上場企業には決算期を3月などから12月に変更する事例が相次いでいます。また電通に特徴的なのは、従業員の過労自殺によって社会的批判を浴びたため、利益を伸ばすこと以上に長時間労働を削減することが課題になっている点です。
2月15日の決算説明会でも、「2年間は成長が鈍化することを選択した」と説明しています。電通は国内事業の他、海外事業もありますが、海外事業は堅調で2017年実績・2018年予想とも増益なのは海外事業が補っているおかげです。
営業利益ベースでも海外事業は伸びていますが、国内事業では人員の増強・作業効率化のためのロボット自動化投資に2017年実績で約70億円計上、2018年予想で約130億円を見込んでおり、これが営業利益の減少要因になっています。最終利益が2017年実績で増益・2018年予想で減益なのは、2017年に買収関連の評価益を計上しているからです。
働き方改革優先で成長鈍化を宣言している以上、PERやROEなどの財務分析をする以前に、1年以内の値上がりを見込んでの投資は難しい銘柄です。ただ働き方改革関連で将来の増益につながる投資をしている点や、海外事業で補えている点はプラス材料です。将来的に増益を織り込める状況になれば、投資する価値が見込めます。
キヤノン(7751):新興国の長期低迷からようやく回復するも円高に阻まれる恐れも
決算短信:http://global.canon/ja/ir/results/2017/rslt2017j.pdf
(※)EPS=1株あたり最終利益、単位は円 PERの分母にあたる
製造業で12月決算の代表的な企業がキヤノンです。2017年実績・2018年予想とも増収増益という理想的な状況ですが、2016年や2015年は減益が続いていました。理由は新興国における、オフィス機器・デジタルカメラの販売不調です。2017年は回復を遂げ、利益伸び率も2ケタの大幅増益でこれまでの不調を取り戻しました。
実績ベースでのROEは8.43%、予想ROEは9.75%となります。2014年に経済産業省より発表された報告書では、ROE8%を目指すべきとされましたので、実績・予想とも8%ラインをクリアしています。なおROAのほうは実績4.65%・予想5.38%と一見決して高くない数値ですが、製造業は機械装置などの固定資産を多く保有するため、低めに出る傾向にあります。
予想PERの分子には2018年4月10日時点での株価終値3,923円を用いると15.1倍で、割安と言えるかの微妙なラインの数字と言えます。なお、Yahooファイナンスや会社四季報に掲載されているアナリスト予想が、会社予想に比べると弱気です。予想業績を計算するうえでの想定為替レートが1ドル110円で、現実の為替の動向から考えると高いと見られているからです。
2018年3月下旬に政治的リスクから1ドル105円程度まで円高が進んだ局面があり、今後の為替予想で会社側がどのように業績予想を修正していくかが株価にも影響してきます。
大手証券会社・日銀短観の2018年度業績伸び率予想
ここまでは個別企業で分析してまいりましたが、2018年3月時点における大手証券(大和証券・野村証券・SMBC日興証券・みずほ証券の4社)の2018年度利益伸び率を見てみます。
これまで見た個別企業では、予想の売上高・利益伸び率が良い企業・悪い企業とありましたが、ここで見る数値は複数のあらゆる業種の企業を対象にした平均的な伸び率です。
純利益の伸び率では、野村:0.8%、大和:1.1%、SMBC日興:7.9%、みずほ:5.0%とばらつきがありますが、経常利益の伸び率は各社とも9%前後を予想しております。これは想定為替レートがSMBC日興の1ドル105円を除くと、各社110円台に設定しており、円安基調での経常増益を見込んでいるからです。
しかしキヤノンの分析で触れたように、円高基調が進むと9%前後の伸び率の想定が崩れてきます。大手企業の予想は2018年3月末現在では、堅調な増益を見込んだまま修正されていませんが、米中貿易摩擦や米国利上げなど(円高以外も含めた)波乱要素は十分考えられます。
2018年4月2日発表の日銀短観では、大企業の経常利益伸び率予想が、製造業:△3.2%、非製造業:△1.2%と減益予想になっています。政治・政策・景気のようないわゆるマクロ的な環境から変化も感じ取りつつ、今後の業績予想を注視してください。