海外と国内で二重課税される外国株配当
国内株ではなく米国株のような外国株の取引を行い、配当を得た場合は外国でまず徴収され、外国の源泉徴収税額を差し引いた後の金額に、所得税・住民税あわせて20.315%(復興財源にあたる復興特別所得税含む)の税金が徴収されます。外国でも日本でも課税されると、かなり損をしている感がありますが、一般論として二重課税は回避すべきものとされています。
国内株の配当も、企業側が支払う配当は費用の扱いとはされていないため、法人税と個人所得税の二重課税がされており、その調整のために配当控除という所得税・住民税引き下げのための税額控除があります。外国と日本で二重課税された場合の調整としては、外国税額控除があります。この税額控除を使えば所得税・住民税の引き下げができますが、しくみが複雑ですので落ち着いて理解していきましょう。
外国所得税額のうち国外所得分だけ引き下げられる
二重課税だからと言って、外国で徴収された所得税額がそのまま所得税や住民税から引き下げられるとは限りません。まず所得税に関しては、控除限度額が存在し計算式は
所得税額 × (調整国外所得金額 ÷ 合計所得金額)
となります。米国株配当のように国外で生じている所得の合計が、調整国外所得金額にあたります。調整国外所得金額・合計所得金額とも、株式・FX取引により生じた当年分の損失は差し引けますが、前年以前3年分の繰越損失は差し引かないで計算します。
所得税の外国税額控除を理解しよう
3つの計算事例で見ていきます。なおその際に、申告分離課税の配当所得に関する所得税額計算を除き、下記の所得税額速算表を用います。
例1:外国税額控除=所得税額のケース…国内の所得税が課税されない
不動産所得:△20万円
配当所得…総合課税で申告、下記()内は源泉徴収税額
国内株配当20万円(所得税及び復興特別所得税30,630円・住民税10,000円)
米国株配当1,111,111円
(外国所得税額111,111円・所得税及び復興特別所得税153,150円・住民税50,000円)
合計所得金額は、配当所得を総合課税で申告すると不動産所得の損失と相殺できるため、20万円―20万円+1,111,111円=1,111,111円となります。基礎控除38万円控除後の課税所得は731,000円(千円未満は切り捨てて計算)です。所得税額速算表を基にした所得税額は36,550円となり、配当控除2万円(配当所得20万円×控除率10%、外国株配当は対象外)を控除後の所得税額は16,550円です。復興税はこの2.1%で347円となります。
国外所得1,111,111円=合計所得金額1,111,111円であり(つまり所得の全額が国外によるもの)、かつ所得税16,897円<外国所得税額111,111円のため、外国税額控除の控除限度額は所得税の全額16,897円です。外国所得税額は徴収されたままですが、国内の所得税が課税されません。この結果、所得税及び復興特別所得税の還付額は源泉徴収されていた全額の183,780円となります。
例2:外国税額控除=外国所得税額のケース…国内所得税額が外国所得税額だけ下がる
不動産所得:△20万円
配当所得…総合課税で申告
国内株配当20万円(所得税及び復興特別所得税30,630円・住民税10,000円)
米国株配当6,666,666円
(外国所得税額666,666円・所得税及び復興特別所得税918,900円・住民税300,000円)
例1と異なるのは、米国株配当が6倍になっていることです。合計所得金額は6,666,666円(全額が国外所得)で、基礎控除38万円控除後の課税所得6,286,000円になります。所得税額速算表に基づく所得税額829,700円であり、配当控除後所得税額809,700円・復興特別所得税17,003円となります。
例2は例1と逆で、所得税額809,700円>外国所得税額666,666円のため、控除限度額は外国所得税額666,666円です。この場合は全て国外所得によるものでも国内の所得税額のほうが外国所得税額より高くなりますが、外国で税を納めた分だけ国内の所得税が下がる計算になります。所得税及び復興特別所得税の還付額は789,493円となります。
例3:外国税額控除<所得税額、かつ外国税額控除<外国所得税額のケース
給与所得:426万円(年収600万円、所得税及び復興特別所得税214,900円が源泉徴収)
配当所得…申告分離課税で申告)
米国株配当111,111円
(外国所得税額11,111円・所得税及び復興特別所得税15,315円・住民税5,000円)
所得控除:基礎控除38万円の他に、社会保険料控除80万円
合計所得金額は、426万円+111,111円=4,371,111円であり、所得控除118万円控除後の課税所得は総合課税分3,080,000円、申告分離課税分111,000円です。総合課税の所得税額は所得税額速算表より210,500円、分離課税の所得税額は15%をかけて16,650円であり、所得税額の合計は227,150円です。復興特別所得税は4,770円となります。国外所得111,111円のため、所得税の控除限度額は、227,150円×111,111円/4,371,111円=5,774円、復興特別所得税についても同様に計算して121円となります。
所得税分と復興特別所得税分両方足しても5,895円と、外国所得税額11,111円に届きません。このように国内の所得と国外の所得が混じる方が一般的で、所得税のうち国外所得に相当する分だけ外国所得税額が控除されます。ただしこのような場合、住民税から控除できる分もありますので後程説明します。なお、所得税及び復興特別所得税の還付額は4,190円となります。
住民税でも外国税額控除が受けられることも
これまで説明したのは、所得税の外国税額控除であり、確定申告を通じて税額や還付金額に反映されるので計算時点ですぐわかることです。ここで説明するのは、確定申告後6月になって税額がわかる住民税に関してになります。住民税の外国税額控除の控除限度額は、所得税の控除限度額×30%と低く、控除幅が所得税のおまけ的な形です。なお30%のうち都道府県と市区町村の比率は、お住まいが政令指定都市であるかないかで異なります。
政令指定都市の場合は都道府県6%・市区町村24%、政令指定都市でない場合は都道府県12%・市区町村18%となります。例えば例1において申告者が政令指定都市に住んでいない場合、道府県民税の控除限度額1,986円、市町村民税の控除限度額2,979円となります。例3において申告者が政令指定都市に住んでいる場合、道府県民税の控除限度額346円、市町村民税の控除限度額1,385円となります。例1において、住民税の課税所得は、基礎控除が所得税より5万円少ないため781,000円となります。例3においては、住民税の課税所得金額は総合課税分3,130,000円・分離課税分111,000円です。
※例1の配当控除…配当所得20万円×配当控除率
配当控除率は、道府県民税1.2%・市町村民税1.6%
住民税の所得割額は、下記の数式により計算します。
(総合課税の課税所得×税率 + 分離課税の課税所得×税率) ― 住民税の税額控除
なお例2においては所得税から外国所得税を引き切っていますので、住民税に外国税額控除は適用されません。
国内所得税から引ききれない外国所得税額分は3年間繰り越し可能
例1や例3のように外国所得税額が所得税額・住民税額をオーバーする場合は、オーバーした控除限度超過額を繰り越すことが可能です。例1においては、外国所得税額111,111円―所得税控除限度額16,550円―復興特別所得税控除限度額347円―道府県民税控除限度額1,986円―市町村民税控除限度額2,979円=89,249円を繰り越すことが可能です。
例3においても同様に計算して3,485円が繰り越せます。例2では所得税額が外国所得税額より143,034円多いですが、もし例えば前年までの3年間に控除限度超過額の繰越385,044円生じていた場合は、外国税額控除を増やせます。繰越385,044円のうち所得税では143,034円分充当し、所得税額809,700円の全額を控除することができ、所得税及び復興特別所得税の還付額は932,527円に増えます。住民税においても同様に控除額を増やすことが可能です。外国税額控除の計算はくせがありますが、きちんと活用すれば税額引き下げに役立ちますし、年をまたいで税額を引き下げることにも役立ちます。