現在、世界の株式市場が迷走しています。2月SQを終えて底が入り、相場が落ち着いてきたので、こちらは別のトピックに移ろうと考えていたところでした。しかし、3月SQは2月SQについで大荒れになる可能性が出てきました。短期予想は「週間展望」で行っているので、こちらは過去の動きを掘り下げてみたいと思います。
2015年の暴落時のNYダウの流れ
パウエル新FRB議長の利上げ継続発言によって、株式市場が再び調整してきました。SQまでの詳細な予想は「週間展望」で特集しましたが、今回のFRBの態度は今までとは違い、かなり変化があります。今回のトレンドの先行きを予想するのには、2015年の相場が一番参考になるでしょう。2015年は前年の10/30に日銀の金融緩和があり、1月にはECBの金融緩和がそれに続いたこともあって、前半は大きく上昇しました。日経平均は17,000円台から夏場には21,000円付近まで上昇しています。しかし9月のFOMCで最初の利上げが行われるのでは?という観測が出て、8月に急落しました。
NYダウ日足2015年8月~2016年1月
これがNYダウの値動きですが、8月後半に急落しています。その前にかなり長い高値もみあいがありましたが、直線的に下げた部分は、今回の下げに似ています。第3週の金曜日には500ドル以上下げて、その動きが週明けの日本市場を直撃しました。8/24(月曜日)には寄り付きから1,000ドルを超える大幅な下落になりました。ただ、この時はその後、下値買いが入ったので、大底確認の流れになりました。今回の下げも、値幅は違いますが、日経の2月SQに合わせるような形で、第二週目にはNYダウにもはっきりとした底が入っています。
しかし急落後のFRBの方針には大きな違いがあります。2015年は9月に利上げが予定されていましたが、あまりにも市場が急落したので、利上げは見送りになりました。これはリーマンショック後の初めての利上げ転換ということで、当局が慎重になったということが伺えます。その後続けて利上げが見送られたことで、完全に市場は戻しました。その流れが10月、11月と続きます。そして12月になると、今度は本当に利上げが行われるという予想で、再びもみ合いになりました。そして実際に12月のFOMCで利上げが行われると、再び反落、翌年の1月からは大きな下げになりました。
このように見てみると、利上げ予想で暴落⇒利上げ中止で大幅反発⇒12月利上げから再び反落という流れになっています。
政府の金融政策にコントロールされる相場
わかりやすい動きですが、金融当局の政策を反映して相場が動いているのがわかると思います。これはある程度、政府は現在の相場をコントロールできるということです。今回の暴落の場合もこの2015年のように3月の利上げが先送りされるのではないかという期待もあって底が入り上昇しましたが、パウエル議長の発言で再び下降トレンドになってきています。今回は、利上げ予想で暴落⇒見送り予想で上昇⇒見送りを否定する発言で再び下落という動きがわずかひと月のあいだで起きているような状況になっています。3月のFOMCはほぼ利上げ間違いないでしょう。
2015年の暴落時の日経平均の流れ
今度は同じ時期の日経平均の動きを見てみましょう。2015年8月はNY市場が下げたので日経平均も同じように暴落しました。この時はかなり急激な円高を伴っていたので下げ幅が大きくなっています。その後はNY市場の持ち直しから10月、11月は上昇。しかし12月にFOMCで利上げされたのを契機に再び下降トレンドになります。ここで注目すべきなのがFOMCと日銀会合の日程です。12/16にFOMCで利上げが決まりましたが12/18の日銀会合で間髪を入れずにETF買い入れ増額を決めました。これはあらかじめFRBの利上げに対して日銀が金融緩和でフォローするという流れが決められていたように思えます。このことで円安・株高の流れを起こそうという狙いだったと思いますが、実際には追加緩和が限定的だったので市場には評価されず、その後は円高・株安の流れになりました。
政府による市場コントロールと限界
このように見てもいえることは、市場は、政府、とくに中央銀行が行う政策によって、ある程度のコントロールは可能だということです。日本でも株式市場はアベノミクスによって中心的な課題になっていますが、「国策は買い」のことわざの通り、市場のトレンドはある程度思う方向に動かすことはできます。しかし忘れていけないのは全く思い通りにできるというわけではなく、たとえば2015年12月の日銀の追加緩和、2016年1月のマイナス金利導入などのように金融緩和をしても市場が評価しないケースもあります。そう言う意味で「ある程度の」のコントロールというようにここには但し書きが付きます。つまりどこまで政策が通用してどこから限界があるのかを見極める必要があるのです。
もうひとつ大切なのは、政府による市場の「保護」や「買い支え」には限界があるということです。アメリカを例にとっても2008年のリーマンショックから三回のQEが行われる間は何が何でも金融市場を支えよう、株価をあげようという当局の態度が存在しました。しかし2004年春先から国債の買い入れ額を減らし、2015年12月には利上げと、FRBは「出口戦略」の方に動いてきました。そして今回は株式市場の大幅調整が起きたのにもかかわらず3月に利上げが断行されようとしています。これはそれだけ実体経済と市場の力に自信がある事の裏返しですが、市場が大きく変動する要因になっています。株式市場は鉄板ではありません。
これからのアメリカの金融政策は「株式市場中心からの脱却」
さて、アメリカの金融政策ですが2008年のリーマンショック後からは、何が何でも株式市場を支えて株価を上げるような政策を取り続けてきました。リーマンショック直後は市場の傷跡も深く実体経済も弱々しく不透明感が漂っていました。その後はギリシャ危機等もあったのでQE1、QE2、QE3三回の大幅な金融緩和も行われました。そのおかげで見違える程アメリカや世界の経済は回復して、リーマンショック直後は5,000ドル付近だったNYダウも26000ドルという高値にまで上昇しました。現在ではアメリカの金融政策は「出口戦略」の段階に来ています。
そのため、数年前までは株式市場を下げさせないように細心の注意が払われていたのが、最近では政策の「株式市場離れ」が進んできました。その代表的なケースがパウエル新議長の「利上げ続行発言」です。2月に大幅に株式市場が調整した理由の一つに3月の利上げ予想があるのですが、数年前なら数ヶ月間は利上げを中断して様子を見守る措置が取られていたでしょう。しかし3月のFOMCを前に議会で利上げ断行を発言するなど、株式市場を第一に優先させていた状況とは様変わりになってきています。それだけ実体経済が強いのと株価が高値にあるのが理由です。しかしこれが今回の株価の再調整の大きな要因になってきています。ここから大幅に株価が下落しても3月のFOMCでは利上げが実行されると見ています。
日経平均の3月SQがどうなるかは不透明ですが、FRBの3月利上げということで株式市場はしばらく調整するでしょう。ドル円為替は利上げにかかわらず円高圧力が強いと予想します。