PERの意味と個別企業での事例

株式相場の基調を語る際に、PERを基に予想する場合がありますが、PERは企業業績に関わる概念です。PERとは1株あたり株価を1株あたり当期純利益で割ったものであり、企業が獲得している利益に対して株価が割安(割高)であるかを表す指標です。例えば、日本マクドナルドホールディングス(2702)の2017年12月期の実績1株あたり純利益180.69円を用いて、計算してみます。分子は2018年3月20日の終値4,780円を使うと、実績PERは26.45倍となります。もっとも、投資を行う上では先読みが重要ですので、実績PERより予想業績を基にした予想PERを多用します。分子は2018年3月20日の終値4,780円、分母は2019年12月期1株あたり予想純利益146.66を用いて計算すると、予想PERは32.59倍になります。この予想PERは、「Yahooファイナンス」「日経会社情報DIGITAL」などでは、分子の1株あたり株価はリアルタイム株価となり、日々刻々と変化して表示されます。また予想業績は、会社予想を使うことが一般的ですが、アナリストなどの予想を使う場合もあります。

相場全体における予想PERの意味

株価予測指標としてのPER各個別企業を対象とした予想PERは上記のように計算されますが、相場基調を先読みする際には相場全体で予想PERを計算します。例えば日経平均株価は対象225社の平均株価で構成されますが、日経平均対象のPERは、加重平均ベースであれば、225社の時価総額(株価×発行済株総数)の合計を225社の予想利益合計で割ったものになります。指数ベースであれば、日経平均株価を225社の1株あたりの予想利益平均で割ったものを用います。日本経済新聞社のサイト「日経平均プロフィル」https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/archives/data?list=perによると2018年3月20日時点では、加重平均ベースで12.61、指数ベースで16.33ですが、日本経済新聞社サイト「国内の株式指標」https://www.nikkei.com/markets/kabu/japanidx/で記載されているのは、加重平均ベースです。マクドナルドの予想PERは、鶏肉問題で業績悪化した頃から回復途上でPERの分母が低めということもありますが、日経平均予想PERに比べると割高と言えます。

これまでの日経平均予想PBR(以下、加重平均ベース)の推移ですが、アベノミクス相場以降は、利益上昇と株価上昇の両方を伴い10倍台(13倍~17倍)で動いてきました。アベノミクス相場以前では、2009年のリーマンショック後は40倍前後に上昇していますが、これはPERの分母が予想利益となっているため、かなり悲観的な(金額が小さい)利益予想がたてられたのが影響しています。2010年に入ってからは、アベノミクス相場開始直後の株価上昇で2013年序盤に日経平均予想PERが20倍台に上がったことを除けば、概ね10倍台の推移で落ち着いています。2017年後半の「トランプ相場」の推移を見ると、2017年10月から2018年1月にかけて14倍から15倍への上昇は見られますが、株価が急騰した割に日経平均予想PERが20倍台には上がっていません。

予想利益が上がれば予想PERの分母も上昇するので、日経平均予想PERの急騰が抑えられます。2018年2月6日に日経平均株価が1000円以上暴落した影響で、この後はさすがに日経平均予想PERも13倍前後まで下落しました。それでも「暴落は調整局面」という投資分析の論調が見られたのは、暴落前でも日経平均予想PERが20倍台まで上がらなかったのが1つの要因と言えます。日経平均予想PERの他に、東証上場銘柄について幅広く対象にした東証株価指数TOPIXについても予想PERが存在します。TOPIX予想PERは、2018年3月20日時点では14.98で、日経平均予想PBRより少し高めです。(参考:https://www.morningstar.co.jp/RankingWeb/SectorPart.do?sectorCode=0000

PBRは相場予想に使える?

PERと似たような概念として、PBR(株価純資産倍率)というものがあります。1株あたり株価を1株あたり自己資本(貸借対照表・純資産の部の「株主資本」+「その他包括利益累計額」)で割ったものになります。理論上、株価(企業の価値)は自己資本に相当しますので、PBRが1を割っている企業の株価は割安と言えます。日経平均PBRは日経平均PERと同様に加重平均ベースと指数ベースで計算されますが、一般的に1株あたり自己資本の予想値を算出する企業はありませんので、直近決算の実績値を用います。(データ:https://indexes.nikkei.co.jp/nkave/archives/data?list=pbr)例えば2018年3月20日時点での加重平均ベース日経平均PBRは、1.19倍であり、この指標ではやや割高感があるように見えます。ある時点での日経平均株価が割安な水準にあるかの指標にはなりますが、相場基調の先読みには一般的には利用しません。

日本株と外国株のPER比較

日経平均予想PERは、日本株が割安であるかの指標であると言えます。日経平均予想PER10倍台の水準は、外国株の予想PERに比べてどうでしょうか?米国株の主要株価指数としては、日経平均株価のような代表的な株価指数と言えるダウ工業株30種平均と、新興株が中心のナスダック総合株価指数、上場500銘柄が対象のS&P500種株価指数があります。ダウ工業株30種平均のPERは15~20倍であり、日経平均予想PERよりやや高めですが大きな差はありません。なお、日本は先進国の中ではPERは低めです。中国・香港や他の新興国では10倍台前半や1ケタであり、割安なので今後の成長により株価の上昇が見込めます。

今後の相場予測に日経平均PERを活用してみると

株価上昇・下落の際に語られる「PERから見て買い・売り」の意味を理解する日経平均PERの動きから考えて、今後(2018年4月以降)の相場はどのようになりそうでしょうか?ドル円が2018年に入ってから1ドル105円前後と2017年に比べて円高傾向になっており、企業業績に悪影響を与えることが予想されます。もっとも製造拠点の海外移転により、かつてよりは日本企業に円高耐性がついています。2018年3月に出揃った大手証券4社(大和証券・野村証券・SMBC日興証券・みずほ証券)の2018年度業績予想も、多くは1ドル110円台の見通しを出しつつ、純利益ベースで0~8%、特別利益・損失を加味しない経常利益ベースで8~10%増益を予想しております。純利益ベースが低いのは、米国税制改革による法人税減税が必ずしも純利益増益をもたらさず、(前払税金を意味する)繰延税金資産の取り崩しによる減益をもたらすこともあるからです(参照 【「繰延税金資産」とは?】法人税減税も減益要因だが気にする必要は無い)。

予想PERに基づいて様々なアナリストが相場予想を行いますが、PERの概念を理解しつつ相場予想の判断をしてください。また、予想PERに基づいた相場予測は具体的数値が用いられることがあります。例えば2018年4月以降に算出される予想1株あたり純利益が1,650円になると見積った場合、PERを14倍と仮定すれば日経平均株価は23,100円、もう少し高くPER15倍と仮定すれば24,750円になりそうだと予想できます。2018年3月20日時点では21,380.97円ですので、4月以降もう少し高くなりそうだと予測できます(3月中はその後数日、乱高下しましたが)。PERをどの数値に仮定するかで予想株価は変わってくるのですが、米国法人税減税の影響で分母の予想純利益が伸び悩むため、PERの仮定数値をもう少し高めにすることも考えられます。米国法人税減税の影響でなく為替などを基に弱気な業績予想を出す(日経平均対象の)企業が多かった場合は、業績悪化懸念という実態を伴って日経平均PERの分母が下がるため、4月以降日経平均PERの分子にあたる株価が伸び悩むことも予想されます。

株価は企業価値を表すので、主に業績や景気などのいわゆるファンダメンタルズに基づきますが、PERに基づく予想はあくまでもファンダメンタルズ分析の1つです。実際には業績の細かい内容(例えば実績や予想の営業利益率など)や政治的なリスク(政権が維持できるか、米中貿易摩擦etc)にもよりますし、相場予測の方法には株価チャートを用いたテクニカル分析もあります。様々な方法・指標を組み合わせて判断することが重要です。特に2018年2月以降では、国内外の政治リスクが強くあらわれ、日経平均PER12倍台とアベノミクス相場においては異例の低水準になっています。PERに基づく予想は材料の1つとして考えてください。