配送量拡大にサービス残業問題宅配業界とトラック業界に押し寄せる働き方改革の波
日本全国、当たり前のようにサービス展開する宅配便に新たな時代の波が押し寄せています。2017年10月1日、宅配便業界の最大手であるクロネコヤマトは27年ぶりに宅配運賃の全面改定を行いました。個人対象の運賃を大幅に見直し、平均15%の値上げを実施したことで、値上げの動きが宅配業界全体に広がりました。

最大手クロネコヤマトの歴史的な舵取り

日本らしいきめ細かなサービスで日常生活に溶け込んだインフラである宅配便は、ここ数年大きな曲がり角に差し掛かっていました。通信販売の拡大によって宅配便取扱個数はうなぎ上りに上昇する一方、恒常的なドライバー不足や長時間労働で現場は疲弊しきっています。さらにサービス残業の問題も深刻です。2017年の1年間で支払ったサービス残業に対する未払い賃金は合計約240億円にも達しました。

クロネコヤマトが業務の運営方針を大きく転換するきっかけとなったのは2016年11月です。2016年8月に横浜北労働基準監督署から残業代の不払いについて是正勧告を受けていたことが発覚しました。横浜市内にあるヤマト運輸・神奈川平川町支店のドライバー2人は配送業務時間を労働時間としており、配送業務時間外に行っていたパソコン入力作業や報告書作成作業の時間は労働時間に含めていないことがわかったのです。申請された労働時間以外の残業が月に30時間以上にもなることがあり、そのうちの一部が未払いの残業代であると労働基準監督署から認定されました。

こうした現場ドライバーの過剰な労働は、Amazonの配送業務を引き受けた頃から深刻化していきました。配送量の増加の反面、人手不足が進行し、ドライバー1人あたりの負担が膨らんでいったことが背景にあります。

労働基準監督署からの是正勧告が続いたクロネコヤマトでは、本格的な労働環境の改善に取り組み始めました。2017年4月に発表された「ヤマト運輸『働き方改革』の基本骨子を機関決定」では2017年度の経営課題のなかで「働き方改革」を最優先するとしています。

クロネコヤマトの「働き方改革」は成功するか

宅配業界とトラック業界に押し寄せる働き方改革の波クロネコヤマトが自ら策定した「働き方改革」の基本的なルールは次の5つです。

一つ目は、労務時間の管理を徹底するため、入退館管理システムを一本化し、職場全体で労務時間が正確に申請できるシステムやルール作りを目指しました。労働時間を正確に申請できない社内運用が続いたことで未払い賃金が発生したことを受けての反省が表れています。

二つ目はワークライフバランスを推進するため、社員が休憩をしっかり取れるようなルールを設けました。休憩時間内は携帯電話の着信を転送して電話を取らなくて済むようにしたり、保育所を設置して育児に掛かる時間や手間を省けるように注力するなど、社員がより暮らしやすくなる休憩制度や福利厚生を検討するとしています。

三つ目は、これまでクロネコヤマトのきめ細かなサービスの代表例でもあった配達時間帯の見直しです。長時間の残業が発生しやすい「20-21時」の枠を見直し、2時間の余裕を持たせ「19-21時」とすることが決まりました。また、昼の休憩時間を確保しやすくなるようにそれまで設定のあった「12-14時」という昼休憩時間に重なる枠は廃止されました。このほか、当日の配達量が増加して負担がかかりやすい再配達受付の締め切り時間を見直して、20時から19時までとしました。

四つ目は、取り扱う配達量そのものの調整です。大手通販サイトをはじめ通信販売によって配達量が急増し、ドライバーに負担が掛かる構造となっていましたが、大口依頼主を中心に宅配便料金の値上げや取扱数量の制限を設けて全体の宅配便総量がキャパシティを上回らないように交渉を続けています。

5つ目は、宅配便の運賃を全面的に改定して人件費や業務効率化に投資していくことです。十分な人件費を確保するために必要なだけの利益を上げられるよう、基本運賃の値上げや再配達を減らすITシステムや宅配ロッカーの普及に努めることで、コスト削減を目指し人材の確保に力を注いでいます。

クロネコヤマトは2017年から働き方改革に取り組み、少しずつ社員が働きやすい環境を目指して改善を続けています。

クロネコヤマトの衝撃は宅配業界全体へ

こうしたクロネコヤマトの「働き方改革」は宅配業界全体に影響を及ぼし、宅配料金の値上げや大口クライアントの変更、再配達を減らすため業界内はもちろんユーザーからもさまざまな議論を巻き起こしました。

宅配便大手の佐川急便もクロネコヤマトに続いて2017年7月に運賃の値上げを発表しています。賃金の改定時期は2017年11月21日で佐川急便にとっては基本運賃の値上げがこれが初めてとなりました。

クロネコヤマトの運賃値上げ発表は2016年秋でした。佐川急便でも未払いの残業代が発覚し、それまで続けていた大口顧客との値上げ交渉では対応しきれないと判断。個人向けの宅配便運賃の値上げに踏み切ったものです。佐川急便はアマゾンとの提携を解消したことで、宅配量より採算を重視する方針を取ってきました。一定以上の利益を確保するために大口顧客からの低価格交渉に慎重な姿勢を示す一方、値上げ交渉に踏み切ったことが功を奏し、2013年以降、1個あたりの収入は上昇を続けています。

ゆうパックは正念場を迎えている

最大手のヤマト運輸と二番手の佐川急便が相次いで運賃値上げや宅配総量の調整に入ったことで、業界三位の日本郵便のゆうぱっくは苦しい状況に追い込まれています。クロネコヤマトや佐川急便がそれまで引き受けていた大口顧客からの配送依頼が飛び込んできたことで、現場の負担は急増しているためです。これまで配達には信頼感のあったゆうパックですが、遅配するケースも増えているという指摘もあります。

日本郵便も今後増加する荷物や人件費の拡大のため、2018年3月1日に値上げされました。利益の確保が現場の負担感解消につながるまでにはタイムラグがあるため、当面は日本郵便がクロネコヤマトや佐川急便並みの抜本的改革を行うまで厳しい舵取りを迫られそうです。

関連銘柄情報

ヤマトホールディングス(株)[9064]
宅配便の最大手企業としてきめ細かなサービスに定評があります。業界シェアは約47%で、国内に約4,000箇所を超える拠点を持ち、近年アジアでのサービス輸出にも積極的に動いています。

2018年3月22日現在の株価は2,627円。2017年12月までおよそ2,200円から2,400円の範囲内で推移していましたが、年明けの2018年1月以降株価が2,900円前後まで上昇。現在は2,700円前後で細かく推移しています。

SGホールディングス(株)[9143]
佐川急便を中核企業とする総合陸運業者です。宅配便の国内シェアは約31%で業界第2位を誇ります。最近は日立物流と資本提携をするなど、企業間物流の強化に動いています。

2017年12月に上場。2018年1月に2,700円前後まで伸びた後、2月以降は下落傾向に入り、2018/03/22現在2,286円の終値を付けました。

日本郵政(株)[6178]
ゆうパックの日本郵便をはじめゆうちょ銀行やかんぽ生命を傘下に持つ持ち株会社です。郵便や物流は連結事業割合で14%。宅配業界では第3位。

株価は2017年10月以降、1,300円前後で細かく推移しており、2018年3月22日現在の株価は1,321円です。