東芝の業績でも大問題になった減損損失
東芝(証券コード:6502)は不適切会計問題発覚以降、経営上の様々な課題をかかえていますが、大きなものとして米国原子力事業連結子会社・ウェスティングハウス社の資産価値に関して巨額の減損損失(2016年4~12月期決算で7,125億円)を抱えた(その後ウェスティングハウス社は2017年3月に再生手続きを申し立て)点が挙げられます。
資産価値の減損損失というとわかりにくいところがありますが、無形の資産だけでなく機械・店舗不動産のような有形の固定資産においても生じえます。また東芝のような経営危機レベルをもたらさないまでも様々な企業において生じており、悪材料になり得る一過性の特別損失になります。特別損失の中でも独特の概念にはなりますが、企業の先行きを見るうえで重要ですので理解しておく必要があります。貸借対照表に計上されている資産のうち固定資産は、それを使用することにより売上獲得に貢献するものです。
例えば製造業であれば機械装置は販売する製品を生みだし、小売業であれば店舗の土地建物(賃借物件ではなく自己所有のもの)は商品売り上げを生みだす場となります。このような固定資産は、店舗売上が落ち込むなど収益性の低下が見られる場合は、企業会計基準上、資産価値を下げないといけません。この下がった分の損失が減損損失です。
固定資産の減価償却と減損の違い
固定資産は土地を除けば経年劣化により資産価値が下がりますが、これは企業会計上、減価償却費を損益計算書上で費用計上するとともに、その額だけ固定資産の額が減少します。減価償却費には(製品売上や店舗売上など)収益を生みだすための必要経費という意味がありますが、減損損失は同じ利益のマイナスでも意味あいが異なります。例えば年商1億円の店舗売上が半減する見込みとなり、価額1億円の店舗建物を5,000万円に切り下げる(つまり5,000万円の減損損失が発生)とします。
減価償却は固定資産の耐用年数にわたって分割して費用化されますが、残りの耐用年数が10年であったとします。建物価額1億円であれば、減価償却費は毎年1,000万円ですが、5,000万円に切り下げた場合には減価償却費が500万円になります。減価償却費÷売上高を売上高減価償却費率とすれば、減損損失発生前は1,000万円÷1億円=10%、減損損失発生後も500万円÷5,000万円=10%と変わりませんが、減損損失を発生させないと1,000万円÷5,000万円=20%と倍増します。売上高減価償却費率の上昇は収益性の低下と言えますから、5,000万円の減損損失は収益性を維持するためのリストラとも解釈できます。なお、この例えは減損損失のイメージをつかんで頂くための説明であり、実務上の減損損失の計上は、売上見込みというよりはキャッシュ・フロー見込みに基づいて計算されます。
また、株式等の有価証券も減損損失の対象になります。短期保有の有価証券は時価評価しますが、長期保有の有価証券は取得時の価額でその後も資産に計上されます。時価評価する短期保有有価証券は減損損失の対象になりませんが、長期保有の有価証券は時価が取得時の50%未満になった場合は、時価との差額を減損損失に計上することになります。ただ有価証券の減損損失が企業業績に大きな影響を与えるケースは、固定資産の減損損失に比べれば少ないです。
のれんの減損が近年問題になっている
店舗不動産・機械装置のような有形固定資産や株式等の有価証券以外に、無形の固定資産においても減損損失は生じます。無形固定資産の減損の中で特に重要なのが「のれん」です。これは、M&Aを行う際の企業価値に関わる概念です。企業買収を行う際、買収する企業の資産価値の査定を行いますが、資産価値と同額で買収するとは限りません。企業買収でわかりやすいのは、完全子会社化(株式を100%保有)することです。査定した資産価値と買収金額との差額がのれんになりますが、買収金額が超過する場合はのれんが貸借対照表・資産の部に計上され、買収金額が下回る場合はのれんが貸借対照表・負債の部に計上されます。
例えば買収先S社の資産600億円・負債200億円として500億円でP社が買収していた場合、買収金額500億円とS社の純資産(資産―負債)価額400億円の差額100億円が、P社の資産としてのれん計上されます。なおウェスティングハウス社に関しては、2014年3月末時点で東芝が87%の株式を保有していました。純資産より買収金額のほうが下回る格安買収よりは買収金額のほうが上回ることが一般的なので、資産の部にのれんが計上されることが多いのですが、買収先企業の収益力が低下した場合はのれんの減損損失も計上することになります。
企業会計基準により異なる「のれん」償却の扱い
のれんは減損損失の対象ですが、それでは規則的に費用化する減価償却の対象なのでしょうか?のれんを償却するかは、各企業が採用する会計基準によって異なります。日本の上場企業が通常採用している日本型の会計基準では、のれんは20年以内で均等に償却します。しかし米国会計基準や国際会計基準(IFRS)では、のれんの規則的償却は行いません。のれんを償却するかしないかで、減損損失への影響も変わってきます。のれんを規則的に償却していると、毎期の利益が償却費だけ下がり業績に悪影響を与え続けることになります。ただ、米国会計基準や国際会計基準を採用している企業のようにのれんの規則的償却を行わないと、減損損失が発生した場合には、規則的償却を行った場合より減損損失が大きくなります。
実は東芝は、もともと米国会計基準を採用しており、ウェスティングハウスを買収した際に発生したのれんの償却を行っていませんでした。2016年12月期に発生した巨額の減損損失7,125億円は、のれんの非償却が額を大きくしてしまったという側面もあります。減損損失計上後、東芝は会計基準を米国基準から日本基準に変更検討との報道もありました。のれんの償却方針を変える意図があったかは不明ですが、日本基準に変更した場合は、変更後に資産計上されているのれんを償却していくことになります。企業買収を行いのれんが計上されていた銘柄を持っている方は、どの会計基準を採用しているか・のれんを規則的に償却しているかを確認しておくと良いです。
減損損失が出た企業への投資を考えるにあたって
減損損失は損失ですから、業績に多大な影響を与えるほど生じてしまった時には間違いなく売りを呼ぶ悪材料と言えます。しかし、その後においても投資するに値しないのでしょうか?将来の収益性低下が懸念される場合に計上する損失が減損損失ですから、確かに減損が生じた企業は先行きが悪いように見えます。東芝のように減損損失が生じると債務超過となってしまい、また(業績以外の原因もありますが)上場廃止が懸念されるような域に達すれば、確かに投資するに不安なところはあります(その後東芝は上場維持のため、2017年12月に6,000億円の増資を行いました)。
しかし前述の5,000万円の減損損失発生事例のように、先取りして損失を発生させることで将来の減価償却費負担を軽減させ、業績を安定させる役割も減損処理にはあります。経営危機とは言えないレベルで減損損失が生じているような企業は、減損発生で悪材料出尽くしとみなして、むしろ(その後の値上がりを見込んで)株価の下がった銘柄の買い場とみなすこともできます。リストラの例えも出しましたが、日本マクドナルドホールディングス(2702)のように、鶏肉問題が起きた後に不採算店舗の固定資産に関する減損損失約77億円(2014年12月期)を計上し、実際に店舗を閉鎖させてV字回復した企業もあります。減損が隠れ損失が顕在化したものか、それともリストラして立ち直る布石にあたるものか、企業の状況にもよって評価が変わることも留意してください。