実際の為替相場を検証していくFXの実地体験ですが、今回は2018年2月5日(月)から2018年2月17日(土)までの動きを見ていきましょう。この2週間では5円近く円高が進み、ドルが下落しています。チャートを分析する「テクニカル分析」や経済情勢を分析する「ファンダメンタルズ分析」の両面からこの状況を確認していきます。
※掲載するチャートは、私が取引しているFX会社のパソコン版のチャートになります。
※お伝えしていく時刻はすべて日本時間になります。
強い円高ドル安のトレンド
今回も2週間分の値動きが見やすいように「8時間足」のチャートを掲載します。メインチャートには「トレンド指標」として有名な「ボリンジャーバンド」を表示しました。サブチャートは「オシレーター指標」の「DMI」を表示しています。
トレンド指標やオシレーター指標を確認するまでもなく、「ローソク足チャート」を見るだけで、ドルが急落しているのがわかります。「強い下降トレンド」が発生している状態です。
2018年2月5日(月)午前7:30に「1ドル110円29銭」をつけたのが、この2週間の「高値」です。ここから110円台を割り込み、翌日の2月6日(火)午前0:20に1ドル110円26銭まで戻すものの、以降は109円台、108円台と下降していきます。
週が明けて2018年2月12(月)になってもレートは上がらず、2月13日(火)には1ドル107円台に突入、翌日の2月14日(水)には早くも1ドル106円台まで下落しました。さらに2月16日(金)午後13:25には「1ドル105円55銭」の「安値」をつけています。1ドル105円台は実に1年3ヶ月ぶりになります。投資家たちを驚かせたこの「円高ドル安」の背景は何なのでしょうか?
テクニカル分析からの気づき
オシレーター指標であるDMIを見ていきましょう。赤いラインが「-DI」を示しており、グレーのラインが「+DI」を示しています。黄色のラインは「ADX」です。
2月5日を過ぎたあたりから+DIを-DIが下から上抜けしています。2月5日前後では、ADXもほぼ同一のライン上にあり、まだ狭いレンジでの変動であることがわかります。「もみ合い」や「レンジ相場」「ボックス相場」と呼ばれる状態です。
2月12日あたりからはADXが急上昇しています。ADXはトレンドの強弱を示していますので、ここから強いトレンドが発生したことになります。-DIと+DIも差が広がっており、ドルの下降が強くなっていることを示しています。
メインチャートも確認してみましょう。7本のラインはボリンジャーバンドです。真ん中の青いラインが「ローソク足21本分の移動平均線」です。その上下の緑のラインが「±1σ」、さらにその上下の赤いラインが「±2σ」、一番外側の水色のラインが「±3σ」です。
2月14日あたりからはずっと-2σにローソク足がかかっています。-3σにかかっているローソク足もありますね。値段は-2σのバンド内に95.5%の確率で収まるとされていますので、想定以上に強い下降トレンドになっていることがわかります。ヒゲが上に伸びているローソク足も確認できるものの、2月9日以降はほとんどが「陰線」で、「押し目買い」もとても弱く、どんどん円高が進んでいます。
テクニカル分析はどこまで対応できたのか
実際のところ1ドル107円台を割ったところから節目がわからなくなっています。投資家たちが設定していた「ストップロス」を完全に割り込んでおり、2016年11月以来となる1ドル106円18銭の安値ラインも「サポートライン」にはなりきれずに簡単にブレイクされています。心理的節目が大台の1ドル105円となっているものの、底が見えない状態に陥っており、1ドル100円台まで下がる可能性があるのではないかと警戒されています。
こうなるとテクニカル分析だけでは、戻りのタイミングを予測するのは厳しいですね。2月14日(水)以降は「損切り」して様子見といった個人投資家も多かったのではないでしょうか。やはりファンダメンタルズ分析も重要であることがはっきりとしました。
ファンダメンタルズ分析からの気づき
ただし、ファンダメンタルズ分析の視点からしてもこの相場の変動は読みにくいものがありました。ファンダメンタルズ分析の常套手段が使えなかった理由は二点あります。
① 米国の10年債利回りが急上昇し、これがダウ工業株の大幅下落を招いたこと
② 米国の経済指標が堅調なのにも係わらず、動意薄でドルが上昇しないこと
これにより、もはやドルが上がる材料が見当たらない状態になってしまったのです。
通常であれば米国の10年債利回りが上昇するのに比例して、ドルは上昇していきます。しかしこの期間は逆に反比例していくことになるのです。
2月6日(火)午後1:45ごろに2.64%まで一度下がっていますが、それ以降はどんどん上がっていき、2月15日(木)には4年ぶりとなる2.90%を突破しています。ちなみに2.64%だった時点では1ドル108円46銭ですが、2.90%を突破した時点では1ドル106円台になっているのです。
また、米国の重要経済指標である「1月ISM非製造業指数」「1月消費者物価指数(CPI)、コアデフレーター」「1月生産者物価指数(PPI)、コアデフレーター」などが事前予想を上回っているのですが、一時的なドル買いを誘発したに過ぎず、すぐに戻り売りとなります。これまでは10年債利回り、経済指標のどちらかが堅調であればすぐに「リスクオン」のスイッチが入ったのですが、今回は「リスクオフ」の流れを止めることができません。
2月15日(木)はドル安の状態で「ゴトーの日」を迎えたことから「仲値」に向けたドル買いが期待されたのですが、上昇はわずかで1ドル106円86銭と上値は完全に押さえられていました。同日の夜に日本政府の麻生財務相が円高水準を容認するようなコメントをし、さらに円高が進んでいます。翌日になって麻生財務相は、為替の安定が重要であることや、必要な場合は対応するといったコメントを発表しましたが、すでに動意薄となっています。
この円高ドル安の問題点はどこにあるのか
2月5日(月)にはダウ工業株が一時1,600ドルという大暴落を記録しました。翌日の日経平均株価も一時1,600円も下げ、世界同時株安では? という憶測を呼んでいます。しかしその後、ダウが上がっても、日経平均が上がっても、ドルは一向に上がりません。
ポイントのひとつは、トランプ大統領が発表した2019年会計年度予算教書です。1.5兆ドル規模のインフラ計画を掲げていますが、オバマケアを撤廃できない状態では、財政赤字が膨らむことは明らかです。2019年の財政赤字は9,840億ドルという予測もあります。これが投資家たちをリスク回避の円買いに向かわせている理由のひとつでしょう。
さらにホワイトハウスからは、米国企業の競争力を強化するために、ドル安に誘導しているのではないかという思惑が広がっており、日本政府も米国のTPP参加のために円高を黙認している可能性があります。
一方でユーロもドラギECB総裁が警戒している1ドル1.25ドルを突破し、2014年12月以来となる1ユーロ1.25455ドルを更新しました。
FXにおいて「ピンチはチャンス」ともいいますので、下手に「逆張り」せずにトレンドに乗れば大きな利益を上げることはできました。しかし、トレンドの転換期は果たしてどこになるのでしょうか。ボリンジャーバンドは拡大と収縮を繰り返します。その規則性に当てはめてみるとそろそろ収縮していく頃合いなのかもしれません。