確定申告の時期が来ましたが、税額計算の前に書類を用意するところから始めないといけないので、申告するのであれば相応の手間がかかります。投資関係だけで言えば年間取引報告書を口座の数だけ用意すればよいのですが、確定申告はそれだけでなく給与なども含めて1年間の所得をワンセットで申告する作業です。給与所得の源泉徴収票も必要になりますし、控除を受けたいのであれば生命保険会社から発行される控除証明書なども必要になります。これから述べる点に気をつけて確定申告の準備を行い、必要な場合は申告するようにしてください。
源泉徴収あり特定口座でしか取引しておらず、損失が無い場合
株式の取引口座において源泉徴収ありの特定口座を選択した場合は、口座内で税金の徴収が完結しますので、この特定口座の資金を利用した上場株の取引による譲渡所得は確定申告不要です。また上場株式の配当に関しても、基本的に所得税や住民税が徴収されてから受け取るので、確定申告不要です。損失がない場合は確定申告をしないのが金銭面を考えてもいいのですが、同じ年度の損失もしくは3年前までの繰越損失があれば、申告しないと税制面で損します。ただ、なるべく申告手続きに手間はかけたくないから申告しないという考え方もありえます。
先ほど述べたように、株式取引の所得以外に給与や年金の源泉徴収票など、発生しているすべての所得の資料を集めないと申告自体ができません。また申告しないほうが、むしろ国民健康保険料の算定基準となる所得や、児童手当等の所得制限を上昇させずに済みます。この点は確定申告と住民税申告を両方行うことで対策を打てるのですが、確定申告だけ行うよりさらに手間を増やすことになります。一番手間をかけない方法(確定申告を行わない)と一番手間がかかる方法(確定申告と住民税申告の両方行う)がともに社会保障制度において有利になるというのは不思議なものですが、下手に藪蛇になるような方法をとるなら手間をかけないほうが賢いですし、投資に時間をかけられます。
なお源泉徴収なしの特定口座で開設したが、2017年分の確定申告をやってみて面倒だからという理由で、2018年の途中で源泉徴収ありに変えたい場合はどうすればいいのでしょうか?2018年にまだ特定口座で取引を行っていない場合は、取引金融機関に変更の申し出をすれば2018年から源泉徴収ありに変更できます。2018年にすでに特定口座で取引を行った場合は、2019年からの変更となります。
源泉徴収無し口座・FX・仮想通貨の所得が28~38万円以下の場合
源泉徴収無しの口座における株式取引・FX取引・仮想通貨取引などによる所得を給与などともあわせて全て合計し、合計所得金額が一定基準以下の場合は申告不要です。この一定基準とは自治体によって3段階に分かれています。1級地:35万円、2級地:31.5万円、3級地:28万円となっており、お住いの自治体がどの級地にあたるか確認が必要です(参照:http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/29kyuchi.pdf)。ただし申告不要なのは親族の納税者が年末調整や確定申告の際にあなたを扶養として届けている場合に限ります。届けていない場合や、もしくは28万円~35万円を上回り38万円以下の場合は、住民税の申告が必要です。住民税申告を行わず扶養としての届出も行っていない場合、未申告扱いとなり社会保障制度の利用において不利な扱いをされることがあります。
また28万円~35万円の基準を超えている場合は、住民税の均等割5,000円が課税されます。なお合計所得金額は、上場株・FXの損失に関しては同じ年度のものは差し引けますが、過去3年間の繰越損失は差し引かずに計算します。
源泉徴収無し口座・FX・仮想通貨の所得が20万円以下の場合は住民税の申告
年収2,000万円以下のサラリーマンや年400万円以下の年金受給者が、その他に20万円(源泉徴収無しの口座における株式取引・FX取引・仮想通貨取引などによる所得)以下の所得しかない場合は確定申告不要です。なおこちらも繰越損失差引前の合計所得金額で判定してください。源泉徴収あり特定口座の取引による所得は、この20万円以下になるかに算入する必要はありません。住民税の申告は確定申告に比べると、納税者側で税額計算しない点が楽になると言えます。住民税の税額計算は自治体のほうで行い、5~6月に計算を終えて納税者に通知します。
確定申告で計算した所得税の納付期限は申告期限と同じ3月15日で、納税額によっては資金繰りがきつくなる場合がありますが、住民税は6月以降に支払います(もしくは給与・年金から天引き)。また基本的に収入額や経費額・支払額など事実を記載すればよく、税特有の控除額計算も必要とされません。FX取引の所得は先物取引等に係る雑所得、仮想通貨の取引は原則総合課税の雑所得にあたりますが、雑所得は経費の範囲が譲渡所得に比べると広く、取引に関わるPC・ソフトウェア購入費・修理費、光熱費・通信費、セミナー代や書籍代などが経費として認められます。収入から経費を差し引き、これが20万円以下になれば確定申告不要制度が使えます。所得が20万円以下の少額であることを示すためにも、住民税の申告をしておくことが重要です。
確定申告不要制度の誤解が無いように注意
確定申告不要制度と呼ばれるものは、実際には何種類かに分類されます。上場株式の配当所得、国債・上場企業社債など公社債の利子所得、源泉徴収あり特定口座の譲渡所得など税金が徴収されている所得に関する確定申告不要制度は、確定申告・住民税申告を行うか行わないかに関わらず申告対象から外せるというものです。このような所得に対する課税方法として「源泉分離課税」という言葉も使われますが、源泉分離課税・申告分離課税(配当の場合は総合課税も)を選べるのが先ほど挙げた所得です。なお銀行預金の利息は源泉分離課税しか選択できないので、申告することはありません。
一方で前述の「20万円ルール」は確定申告の手続き一式を省略できるというものであり、また該当する場合でも住民税の申告は必要とされます。医療費控除を申請したいなどの理由で確定申告を行うのであれば、20万円以下の所得も申告する必要があります。ふるさと納税を行った場合に確定申告の手続きを省略できる「ワンストップ特例制度」も20万円ルールと似たような性格があり、確定申告を行うなら寄付金控除証明書をもってふるさと納税を申告しないと無効になります。なお20万円ルールを用いて確定申告は行わないけど住民税の申告を行う場合、住民税においてふるさと納税の申告は必要であり、ワンストップ特例で済ませることはできないことに注意してください。
電子申告すれば一部の書類を提出省略できる
電子申告(e-tax)は2004年にはすでに開始されていたのですが、マイナンバーカードもしくは住基カードと、カードを読み取るカードリーダーが必要なため、オンライン利用は進んでいませんでした。2017年分の確定申告についてもこれらが必要ですが、その分給与所得の源泉徴収票や特定口座年間取引報告書など通常提出が必要な書類の添付を省略できます。ただしこれは添付不要でなく添付省略であり、申告期限から5年間の保存義務はあります。
なお2019年に提出する2018年分の確定申告からは、税務署の窓口で本人確認を行った場合はカードリーダーやマイナンバーカードは不要となる予定です。なお医療費の領収書に関しては、2016年分までは電子申告以外で提出義務がありましたが、2017年分以降は税務署が配布している医療費の明細書にきちんと記載する、もしくは確定申告書作成コーナーで書面申告書を作成している場合でも領収書に基づいて明細を入力していくことを条件に、電子申告でなくても提出義務が無くなりました。