確定申告の際には原則税務署に提出が必要
確定申告の時期が近づいてきましたが、特定口座で株式等の取引している場合、金融機関は1月には特定口座年間取引報告書を投資家に提供します。税務署に確定申告書を提出する場合、特定口座年間取引報告書を原則添付する義務があります。例外はマイナンバーカード(もしくは電子証明書の有効期限が継続している住基カード)とカードリーダーを用いて、国税庁の確定申告書作成コーナー(https://www.keisan.nta.go.jp/ )で電子申告した場合に添付不要になります(保存は必要)。なお、電子交付された特定口座年間取引報告書を印刷して提出することは認められていないので、電子申告以外の方法による場合は、金融機関から郵送してもらいましょう。2016年から上場株式の損失と相殺できる金融商品の範囲が拡大し、国債の利息・売却益なども認められるようになっています。特定口座年間取引報告書をよく見ていくとどこまでの範囲で認められるか理解できますので、以下解説していきます。
参考リンク:特定口座年間取引報告書(国税庁)
https://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/annai/pdf/h28/1253-02.pdf
「保管」「信用」「配当等」の区分
特定口座年間取引報告書(右上の部分)
特定口座年間取引報告書の上のほう「勘定の種類」欄では、「1 保管」「2 信用」「3 配当等」とあります。金融機関により記載の仕方が少し異なりますが、該当する取引のみ記載されているか、該当する取引の数字に○がついています。「保管」は通常の現物株取引、「信用」は株の信用取引を意味し、「譲渡に係る年間取引損益及び源泉徴収税額等」欄で「保管」に対しては「上場分」に、「信用」に対しては「特定信用分」にそれぞれ売却金額・購入金額・差引金額が記載されています。「配当等」は源泉徴収有り特定口座に配当などを受け入れていることを意味しており、2016年から適用された改正以降は記載内容が増えています。この部分を理解すると上場株式の損失と相殺できる範囲が理解でき、また申告にあたっての税金対策にも役立ちます。
特定口座年間取引報告書(①~③)
丸数字①~⑲の概要
丸数字つきの欄のうち①は売却金額、②は購入金額、③は①-②の所得金額(横文字で言うとキャピタルゲイン)を意味し、①~③は申告内容の中心と言えます(信用取引の空売りの場合は①が空売り、②が返済買いの金額です。)。残り④~⑲は配当等(いわゆるインカムゲイン)に関する記載で項目数が多いです。④~⑨は「特定上場株式等の配当等」、⑩~⑮は「上記以外のもの」とあり、前者は2015年以前から記載項目だったもので、後者は2016年以降の改正で新たに記載されるようになったものです。この下には⑯「譲渡損失の金額」⑰「差引金額(⑨+⑮―⑯)」とあり、要は損失が出た場合に相殺できるインカムゲインの対象が⑩~⑮まで追加されたということです。
特定口座年間取引報告書(④~⑲)
インカムゲインは上場株式や投資信託以外に記載されるものも
インカムゲインの中身ですが、まず④~⑨と⑩~⑮のグループごとの違いは、④~⑨が元本保証されないリスク商品(株や投資信託など)であり、⑩~⑮が為替変動や倒産リスクを除けば元本保証される金融商品(債券もしくは債券を組み込んだ投資信託など)に該当します。項目ごとに見ると国内株の配当が④に該当し、国内ETFの配当が⑤「特定株式投資信託」に該当します。飛んで⑧では「国外株式又は国外投資信託等」とあり、これが米国株など外国株の配当や外国投資信託の分配金にあたります。一旦「上記以外のもの」の説明に入りますが、⑩は国債及び国内の地方債・社債の利息にあたり、⑪の社債的受益権は社債のごとく決められた分配金が入る投資信託(特定目的信託)の分配金にあたります。⑭は「国外公社債等又は国外投資信託等」とあり、まず外国債及び外国の地方債・社債の利息に該当します。この⑭で言う「国外投資信託等」は⑧と違い、債券で構成される公社債投資信託を指します。ここから両区分にまたがりますが、⑦⑬はともに「オープン型証券投資信託」とあり、途中解約できるタイプの投資信託が該当します。⑥⑫もともに「投資信託又は特定受益証券発行信託」とあり、途中解約できないタイプの投資信託などが該当します。この両者で文言が共通する投資信託も、⑫⑬は債券で構成される公社債投資信託が該当し、⑥⑦は株式を組み込んだ投資信託が該当します。
特定口座で株式取引される際に用意した資金は、MRFに投資することが多いのですが、その分配金はリスク商品に投資することの無い投資信託のため⑬に記載されます。この欄には身に覚えが無いのに数字が入っていることが多いのですが、きちんと確認しておくと良いです。2016年より国債・地方債・社債の利息も、上場株式・公募投資信託の売却損と相殺できるようになりました。また元本保証されるこれらの債券も、途中で売却すれば損失が出ることがありますが、この損失と上場株式・公募投資信託の売却益や配当・分配金も相殺できます。
譲渡損失と配当等受け入れが両方ある場合は税額調整されている
源泉徴収ありの場合で、③の差引金額がプラスの場合、④~⑮の配当・分配金がある場合、「源泉徴収税額(所得税)」と「**割額(住民税)」(③に対しては「株式等譲渡所得割額」④以降に対しては「配当割額」)にも数値が入ります。つまり所得税と住民税が徴収された後の金額を得ているということです。所得税は所得額の15.315%・住民税は5%かかります。なお配当割額(住民税)の右側には「特別分配金の額」とありますが、これは元本の取り崩しにより得る分配金のことで非課税であり、課税対象の収益分配金とは区別されます。なお⑯譲渡損失の金額が0円の場合は、⑱納付税額は単純に④~⑮の各項目にある所得税・住民税額の合算になります。しかし⑯の譲渡損失がある場合(つまり③でマイナスの場合)、納付税額は単純な合算ではありません。例えば、配当等の額が20万円の場合、源泉徴収税額(所得税)は30,630円・配当割額(住民税)10,000円が徴収されています。ここで⑯譲渡損失の金額が10万円ある場合⑰差引金額は10万円となり、⑱納付税額は源泉徴収税額(所得税)15,315円・配当割額(住民税)5,000円と半額になります。半額が還付されるため⑲還付税額は、源泉徴収税額(所得税)15,315円・配当割額(住民税)5,000円となります。譲渡損失が20万円を超えている場合は、⑰差引金額は0円となり、⑱納付税額も全て0円となります。この場合全額還付のため⑲還付税額は、源泉徴収税額(所得税)は30,630円・配当割額(住民税)10,000円となります。このように特定口座で配当等の受け入れを行うと、金融機関側で相殺による税額調整を行ってくれます。
申告対象選択の注意点
売買益のみ申告する場合(「国税庁確定申告書作成コーナー」平成29年版より、以下同)
配当等のみ申告する場合
源泉徴収なし特定口座の③差引金額(譲渡所得等の金額)は、プラスになっているものは確定申告が必要です。一方源泉徴収あり特定口座「保管」「信用」に対応する③差引金額(譲渡所得等の金額)、「配当等」に対応する④~⑲の所得は、原則としてそれぞれ申告対象にするかどうかを選ぶことができます。原則というのは、③差引金額がプラスである場合です。③差引金額がマイナスの場合は、前述のように譲渡損失と配当所得が相殺されて税額計算されているため、特定口座年間取引報告書の内容の全てを申告するか、申告しないかのどちらかになります(下図参照)。
なお「配当等」に対応する所得を申告対象とする場合、上場株式等に係る配当所得等に該当しますが、「特定上場株式の配当等」④~⑨の配当・分配金は総合課税の配当所得を選択することもでき、その方が多くの還付金を得られる場合もあります。ただし、配当控除の対象になるのは④のうちREITのような投資口を除いたもの、⑤のうち外国ETFでないもの、⑥⑦のうち外貨建て資産割合が75%以下のものであり、配当控除の額によっては有利にならないこともあります。