減税に使える数々の所得控除
年が明けると、投資家にとっては確定申告の手続きを進めていく時期になります。株やFXの取引で生じた所得の申告がまず最重要ですが、いかに所得税・住民税を減らすかも考えると良いです。投資家に馴染みのある減税策は損失の申告であり、ビットコインなどの仮想通貨は損失の繰り越しや他所得からの相殺ができないのは痛いですが、投資家に限らず使える減税策が所得控除です。扶養家族がいる方、保険料を払っている方、多額の医療費がかかった方、話題のふるさと納税を利用した方などが所得控除を使えます。確定申告しない専業サラリーマンの税金手続きは、ほぼ所得控除の手続き(いわゆる年末調整)で終わります。なお同じく年末調整で使える住宅ローンの税額控除は、ローン残高に応じて所得税額を減らす仕組みで、これから解説する所得控除とは違う枠組みになります。
所得控除を所得から差し引く仕組み
サラリーマンが得る給与所得、株の売却益にあたる譲渡所得、株の配当収入による配当所得、仮想通貨の儲けにあたる雑所得など個人の所得は10種類に分類されますが、まず上記で紹介した所得控除を何も考えずに、10種類の所得をそれぞれの方式で計算します。この10種類の所得には、株やFXの所得のように税率が所得税・住民税あわせて20.315%と決まっている分離課税の所得と、給与所得や仮想通貨の所得のように税率が個々人により異なる総合課税の所得の2種類に分かれます。
所得控除は、まず総合課税の所得合計(総所得金額と言います)から差し引かれ、それでも差し引けない残りの分は、分離課税の所得から差し引かれます。総所得金額から所得控除額を差し引いた課税総所得金額に対し、所定の算式により所得税額を求めます。税率は課税総所得金額が大きくなる程高くなります。この所得税額の2.1%が復興特別所得税額にあたり、所得税といっしょに納税するものになります。一方で株やFXの所得にかかる所得税は復興特別所得税とあわせて税率15.315%と決まっていますが、所得控除を差し引いた後の分離課税所得額×15.315%として計算されます。ここで計算例を示します。
所得:ビットコインの取引による所得(総合課税の雑所得) 38万円
FX取引による所得(先物所得に係る雑所得等) 100万円
所得控除額(基礎控除除く)の詳細:社会保険料控除10万円、医療費控除10万円
※所得控除の内容に関する詳細については次節以降で触れます。
なお所得控除には、だれでも差し引ける基礎控除が所得税38万円・住民税33万円もあります。ビットコインの所得に関しては総合課税の雑所得となるため、総合課税の総所得金額は38万円となります。所得税に関しての所得控除額は、基礎控除38万円+社会保険料控除10万円+医療費控除10万円=58万円となり総所得金額に対して20万円上回ります。よって総合課税の課税総所得金額は0円となり、ビットコインの取引による所得からは所得税は発生しません。
課税総所得金額0円の場合はFXの所得100万円からも超過の所得控除額20万円(所得控除額58万円―総所得金額38万円)を差し引くことができ、分離課税の所得は80万円となります。通常FXの所得100万円に対しては、復興特別所得税を含む所得税率が15.315%ですから、所得税及び復興特別所得税は153,100円(100円未満切り捨て)かかります。しかし所得控除を差し引けて80万円になれば、所得税及び復興特別所得税は8割に減り、122,500円になります。
一方住民税において所得控除額は基礎控除額が33万円のため53万円となり、FXの所得から差し引かれる金額が15万円となるため、住民税のうち所得に応じてかかる額は、85万円×分離課税の所得にかかる住民税率5%=42,500円となります。住民税の総額は定額の均等割5,000円も加わり47,500円となります。このように総所得金額が低い場合(給与所得であればパート収入程度)に、分離課税の所得から所得控除が差し引かれます。なお、源泉徴収される上場株式の配当所得は総合課税と申告分離課税の2方式選択でき、また申告対象としないこともできます。配当所得を申告分離課税で申告してもそこから所得控除が差し引けるような状況の場合、総合課税で申告したほうが有利になります。
年末調整でも申告できる扶養控除や各種保険料控除
年末調整の手続きでは「扶養控除等申告書」「保険料控除等申告書」を提出し一定範囲の所得控除が受けられますが、確定申告でも同様に所得控除の申告はできます。「扶養控除等申告書」の対象となる所得控除は、社会保障的意味合いがあり控除の種類も多いのですが、代表的なものを紹介します。合計所得金額38万円以下の要件を満たす扶養家族がいれば、扶養控除の対象となります。年収基準を表したもので有名な「103万円の壁」は、給与所得の経費にあたる給与所得控除額の最低額が65万円のため、所得が給与だけの場合に合計所得金額が103万円―65万円=38万円となることに起因します。扶養家族が配偶者であれば配偶者控除という別控除の枠ですが、年収103万円を超えても141万円(合計所得金額76万円)までは控除(配偶者特別控除)の対象です。
扶養控除・配偶者控除の額は所得税38万円・住民税33万円で、配偶者特別控除は所得税38万円~3万円、住民税33万円~3万円と配偶者の所得に応じて変わります。「保険料控除申告書」の対象となる所得控除は、支払金額全額が控除になるものとしては社会保険料控除や小規模企業共済等掛金控除があります。小規模企業共済等掛金控除は個人事業主の退職資金を用意する小規模企業共済の他、投資で年金作りするiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金も対象です。民間保険の支払による生命保険料控除や地震保険料控除もありますが、全額控除ではなく上限額(下記の表参照)も設定されています。
保険料控除の上限
年末調整以外で申告する医療費控除やふるさと納税
年末調整以外でないと活用できない所得控除もあります。代表的なものでよく活用されているのが医療費控除と寄付金控除(ふるさと納税など)です。医療費控除は年間医療費10万円を超えないと活用できないと言われていますが、総所得金額+分離課税の所得(繰越控除相殺後)の5%=Aが10万円未満の場合Aを超えれば活用できますし、2017年以降は一定の市販薬購入額が年間1.2万円を超えた場合も活用できるようになりました。ふるさと納税は地方自治体に寄付すれば、原則寄付した金額から2,000円控除した分だけ住民税・所得税が安くなる制度です。
配当所得や源泉徴収される特定口座の譲渡所得の申告には注意
FXや仮想通貨の所得は基本的に申告せざるを得ないのですが、株の投資に関しては、20,315%の所得税・住民税があらかじめ徴収される譲渡所得(源泉徴収あり特定口座で取引している場合)や配当所得は、確定申告の対象としないこともできます。いわゆる専業トレーダーであれば、まず分離課税の所得からも所得控除が差し引けるので、これらの源泉徴収される所得を申告しておくと、源泉徴収された税額が還付の対象になります。
しかし国民健康保険料や給付金の所得制限への影響に気をつける必要があります。国民健康保険料は、所得控除を差し引く前の所得合計額(ただし住民税の申告対象としたもの)に基づいて算定されます。所得税の申告(確定申告)では申告対象とするのはいいのですが、別途住民税の申告も行い、ここでは申告対象としなければよいのです。分離課税の配当所得・譲渡所得にかかる住民税率は5%ですが、国民健康保険料率は(自治体にもよりますが)10%前後です。住民税の減税よりは国民健康保険料を上げない方向を選択したほうがよいです。また給付金の所得制限は一部の所得控除だけを考慮する(しかも制度毎に異なる)特殊な仕組みになっています。住民税ではなるべく申告不要とするように心がけてください。