他の上場企業とは異なる決算書表記

【ニュースで報道される企業業績】投資先の成長性を見極めるための利益・損益の基礎
【業績の理解に深みを増す】資産・負債など企業の財政をまとめた貸借対照表の基礎

上記の損益計算書・貸借対照表の解説が一般的な企業の決算書に関するものですが、銀行・証券・保険のような金融機関は表示が一部異なります。他の業種に比べ区分が大まかになっていますが、見慣れない金融商品や金融用語も見受けられます。骨格がわかれば主要な経営分析指標は他の企業と同じような形で計算できますので、他の業種との違いや決算事例を見ていきます。

経常収益・経常費用と業務純益・基礎利益

利益の枠組みと数値例 +は加算項目 -は減算項目
経常収益・経常費用と業務純益・基礎利益

銀行・保険の損益計算書と数値例
銀行・保険の損益計算書と数値例

まず損益計算書ですが、金融系企業のうち銀行と保険に関しては、経常利益=経常収益―経常費用として計算し、以降は他の業種と同じ形式で計算します。売上と営業外収益にあたるものが経常収益に、売上原価・販売費および一般管理費・営業外費用が経常費用にまとめられます。こうなるのは営業外収益・費用は主に利息や受取配当金のような金融関連の収益費用であり、金融機関が分けて表示するのはあまり意味が無いからです。また小売や製造のように在庫を持つ業種でもなく、原価と営業費用(販売費および一般管理費)を分ける意味も乏しいです。証券会社に至っては、特別損益も分けずに単に金融収益と金融費用に分けて表示します。このため、売上高・営業利益・最終利益を表示する決算短信の冒頭では、売上高に代わり経常収益、営業利益に代わって経常利益を表示します。それでは営業利益にあたる本業の儲けを全く計算しないのかと言えばそうではなく、銀行では業務純益、生命保険会社では基礎利益という呼び名で計算しています。ただ表記するのは損益計算書ではなく、別途事業概況で表記するのが一般的です。

売上債権や棚卸資産を持たず、流動・固定区分が無い

保険会社・銀行など特殊な決算書の読み方次に貸借対照表ですが、まず大枠として流動資産・流動負債と固定資産・固定負債の区別がありません。また、金融は業種的に売上債権(売掛金など営業上の未収入金)や棚卸資産(在庫)を持たず、代わりに馴染みのない金融商品が資産に並んでいます。「コールローン」「買現先勘定」などがありますが、これらはあまり深入りせず資金に相当するものと考えておけばよいです。売上債権・棚卸資産を使った指標や、流動・固定の区別をつけた形での指標分析ができませんが、

【日本を代表する3社の経営分析指標】低PBR・高ROEは「買い」という理由と他経営分析指標
で紹介したROE・ROA・PER・PBRといった投資を行う上での主要な指標は分析可能です。また保険会社の負債項目で特徴的なのが、巨額の準備金がある点です。保険金支払いのために法律で一定額の確保が義務付けられているものです。通常負債が多すぎるのは危険ですが、保険会社の場合準備金に関してはやむを得ないと考えたほうがいいです。なお銀行においては経営破たんのリスクをはかるために、自己資本比率は非常に重要な指標となります。

3大損保グループの決算書からわかる業績・金融環境

決算書の事例分析として、3大損保グループの2018年3月期中間決算を例にとって説明します。後の説明のために、決算短信でなくグループ会社の概況もわかる資料を基にします。

東京海上HD:http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=1534964
MS&AD HD:http://www.ms-ad-hd.com/ir/library/earnings/pdf/kss_2017_2.pdf
SOMPO HD:http://www.sompo-hd.com/~/media/hd/files/doc/pdf/news2017/20171117_2.pdf

3大損保グループの決算書からわかる業績・金融環境
単位は全て億円
()は前年同月比増加率
最終利益は当社(親会社)株主に帰属する当期純利益
(上記の注に関しては以下の表も同様)

3グループとも経常収益が伸びているものの、経常利益・最終利益ともに10%を超える減少という点では共通しています。経常収益は主に保険料収入になりますが、これは増えています。経常利益・最終利益が減少している最大の要因は、アメリカでのハリケーン災害に伴い多額の損害保険金を支払うことになったからです。損害保険会社はどうしても自然災害の際には支払いが多くなり、各社とも業績が悪くなる傾向になります。とはいえ事前に準備金で積み立ててある分もありますので(支払金全額では無いですが)、赤字にはならず利益の確保はできています。また比較するとMS&ADは比較的減益幅は小さく、SOMPO HDは前期比半分ほどに減少しています。損保グループは、どのグループも傘下(子会社)に下記のような生命保険会社を抱えています。

東京海上HD:東京海上日動あんしん生命保険
MS&AD HD:三井住友海上あいおい生命保険・三井住友海上プライマリー生命保険
SOMPO HD:損保ジャパン日本興亜ひまわり生命

大手生命保険会社の状況はここから見えてくるわけではありませんが、生命保険会社は上場していない企業も多いですし、損保グループの決算書からも生命保険会社に関する一応の状況が分析できます。

損保グループの決算書
(*)前期は赤字

生命保険会社に関しては基礎利益も重要ですので抜粋しています。生保子会社も、契約高が増加により経常収益は増収です。MS&AD傘下の2社は経常利益の増益を果たしていますが、その他の傘下2社は経常利益・最終利益とも減益です。生命保険会社は自然災害により業績が大きく左右されることが無いので企業の経営努力により傾向が異なりますが、主に国債に投資して運用しているのは共通しています。しかし国債の金利は日銀の低金利政策が影響して低くなり、運用益を出すのが難しい状況です。ちなみに他業種の話をすれば(決算事例の紹介は省略しますが)この低金利政策の影響で銀行も本業の貸出で稼ぐのが難しく、AI導入によるリストラや地方店舗での平日休業を迫られています。一方で証券においては世界的株高により、2018年3月期中間決算において多くの証券会社が増収増益を果たしています。大手生命保険会社では基礎利益の増益を果たしている企業も多いのですが、国債より金利の高い外国債券で運用益を出しており、どれだけ外国債券に振り向けたかで業績が異なっています。最後に指標分析において注意が必要なものについて触れておきます。

3大損保グループの決算書
※準備金は負債のうち準備金とつく科目を集計
ROAの分子(最終利益)は中間決算の利益を2倍し、12カ月分に換算

ROA(総資産利益率=最終利益/総資産額)のように総資産額を使用する指標は、保険会社の事情を考慮して修正版の指標(上記*つきのROA)で計算したほうがよいです。他の上場企業と同様の形で計算すると、ROAは(12カ月分で換算したとしても)1%を切るかなり低い数値になります。しかし上記各社とも総資産の半分を上回る準備金があり、準備金を支払うための資産は自由に使える資産とは言えません。このため保険会社においては、総資産額から準備金に相当する額を差し引き(上記の差引総資産)、差引総資産(自由に使える資産もしくは他業種と同様の支払義務に充てる資産)を分母としたROAで見たほうが良いです。修正版のROAであれば、東京海上やMS&ADのような2%台の数字は他業種の優良企業でもありえます。ただこの場合でも2018年3月期中間決算の利益は減益となっているため、各社とも理想的なROAの数値とは言い難いものがあります。