品川−名古屋間のリニアモーターカーが2027年開業と決まった一方、地方ではリニアはおろか新幹線から外れたエリアがまだ多く残っています。「夢の超特急」の新幹線は日本の高度経済成長の象徴として、東海道新幹線、山陽新幹線、東北新幹線、上越新幹線の4本が出揃った後も、地方への延伸が続けられました。長野新幹線や九州新幹線の開業に続き、北陸新幹線の開業と福井延伸に地元では湧いています。また、以前から検討されていた四国新幹線も具体的な整備に向けて議論が活発化しています。
これまで、新幹線は経済効果や地域交流をはじめ、路線沿線はもとより広範囲で地域を活性化する切り札として利用されてきました。ここでは今後の延伸や開業が期待される北陸新幹線と四国新幹線にスポットを当てて、新幹線の新たな展望とその関連銘柄についてご紹介します。
地方新幹線の始まりは「日本列島改造論」
昭和を代表する首相の一人として今なお賛否両論で語られる田中角栄の主著に「日本列島改造論」があります。1960年代当時、これからの日本をどのように作り替えていくのかを、壮大な構想で語り尽くしたものです。田中角栄は新幹線や高速道路といった交通インフラ網の整備を実現したように、新幹線が持つ経済効果を重視していました。人の移動が活発になることで、経済が大きく動き、都会と地方の格差が是正されると考えており、実際、それまで難しかった東京ー大阪間の日帰り出張が当たり前のものとなって長い年月が経っています。
田中角栄が首相だった1973年に決定された新幹線整備計画は2017年現在の私たちの新幹線移動を支えるベースとなりました。しかも、1973年当時に開通していた東海道新幹線、岡山までの山陽新幹線のみならず、東北から北海道、上越や長野、北陸、さらに山陽新幹線の博多延伸から九州新幹線まで、すでに構想されていたものです。そして、それ以外、現在でも新幹線が未整備のエリアで特急に旅客輸送を頼っている北陸、山陰や四国まで将来的に新幹線が整備することを目指していました。
近年、相次いで北陸新幹線の金沢までの開業や福井延伸、さらに四国の悲願といわれる四国新幹線の整備実現化は40年以上前に国が国民に提示した未来予想図そのままだったのです。
整備中の地方新幹線のうち福井延伸が決まっている北陸新幹線と整備の正式決定への見通しが立たない四国新幹線について以下見ていきましょう。
北陸新幹線
北陸新幹線は高崎から長野までの一部開通によってその歴史をスタートしました。長野から金沢間が開業する2015年まで、長野新幹線として親しまれ長野オリンピックでの旅客輸送の後も信州や山梨への行楽観光客や地元住民の移動手段として利用されてきました。金沢開業をもって北陸新幹線という愛称が定着し、今後は2023年春に敦賀(福井県)まで開業予定、その後は京都から新大阪まで整備される見込みです。
北陸第一の都市、金沢を有する石川県の悲願であった北陸新幹線延伸によって、地元は計り知れない恩恵を受けています。実際、北陸新幹線の金沢開業から1年経った2016年に日本政策投資銀行が発表した経済効果によると、当初の予想を大きく上回る数字でした。
開業前は想定で直接効果81億円、経済効果は125億円との試算でしたが、開業1年後の結果は直接効果454億円、経済効果678億円と、当初予想の5倍を超える成果となりました。
また、石川県外からの観光客数は開業前見込みで32万人増のところ、開業後1年でなんと258万人増となり、当初予想の8倍以上の県外観光客が押し寄せる結果となります。
北陸新幹線による大きな経済効果の背景には、まず金沢という都市の持つ観光地としての魅力があります。前田家の加賀藩の城下町として栄えた金沢には日本三大庭園の兼六園に金沢21世紀美術館、古い街並みを今に伝えるひがし茶屋街など、全国の旅行客を引き寄せる観光スポットを多くあります。またカニやノドグロなど日本海の幸も豊富で酒どころです。一度は金沢を訪れたいと考えていた人たちが北陸新幹線の開業によってアクセスが良くなり、満を持して観光に訪れるようになったのです。
金沢の街全体が観光客で活気を取り戻したことで、地元の人たちもそれまで足が遠のいていた商店街や観光地を見直すきっかけとなったという声も聞かれるほど、地元経済への影響は計り知れないのです。
北陸関連銘柄情報
北陸鉄道【非上場】
1943年創業の北陸を代表する私鉄企業。石川県下の路線バスや高速バス、貸切バス、鉄道事業のほか、旅行業や不動産事業も行っています。北陸新幹線開業後の2016年5月、19期ぶりに3月期に合わせて15円配当を実施、県外観光客の増加によってバスや鉄道の利用者増加が如実に証明されるかたちとなりました。上場はしていないものの、約4000の個人株主がおり、地元の証券会社で取引可能です。
北陸電気工事【1930】
北陸電力の子会社として電気工事事業を展開しており、北陸電力向けの工事が売上高全体の4割を占めます。近年、全国への進出を目指しており、北陸以外への事業展開も活発です。創業は1944年、上場は1986年。本社は富山市にあります。2017年12月現在の株価は1,100円前後を推移しています。
四国新幹線
2017年11月、四国新幹線の話題で大きな動きがありました。香川県高松市で開催された四国の活性化について議論するシンポジウム「四国の未来を拓(ひら)くリーディング・プロジェクト」において、四国新幹線の鴟尾の必要性が改めて提言されたのです。
四国全体はもとより関西圏での経済効果も大きく見込める四国新幹線の整備の早期着工を実現することが、地方の生き残りにとっても重要だと確認されました。新幹線の空白地域である四国の整備を加速化するために、四国の4つの県庁所在地を単線方式で結べば、開通までの期間はもちろん概算事業費も通常の複線で工事するのに比べて1兆円以上抑えられると見込まれます。
四国がこれほど新幹線を熱望するのには、国内の新幹線の整備が進み、北海道から九州まで広がるなかで、四国のみ具体的な計画すら進んでいないことに対する危機感が裏にあります。新幹線のネットワークで北海道、本州、九州がつながれば、四国は交通や流通はもちろん経済発展からも取り残されるのは必定で、是が非でも整備計画を実現しなければいけないと考えるためです。北海道新幹線や北陸新幹線の経済効果の予想から見ても四国新幹線が持つ可能性は少なくなく、やがて関西から四国を抜けて九州の大分へと結ぶ田中角栄以来の新幹線整備計画を強力に推進していこうとする提言がなされました。
四国関連銘柄情報
伊予鉄道【非上場】
道後温泉や松山城を有する松山やしまなみ海道の観光客増加に伴い、バスや鉄道の利用客が増加しています。観光の目玉となっている坊ちゃん列車の運行や道後温泉駅にスターバックスを呼び込むなど、積極的な営業展開も続けています。平成28年度の輸送実績では鉄道とバス合計で0.9%増となっており、愛媛への観光ブームを追い風に今後も伸びが予想されます。2018年4月には持ち株会社制への移行が決定しており、意思決定のスピードアップによってさらなる力強い経営を目指します。