ストキャスティクスの効果的活用法

相場は、上がっては下がる、下がっては上がるという“振動”を繰り返しながらより大きなトレンドを形成していきますが、この振動を捉えたものがオシレーター系と呼ばれるテクニカル分析手法です。オシレーターとは、“振動子”とか“発振器”いう意味です。オシレーター系のテクニカル分析手法には、ストキャスティクス、RSIなど何種類かありますが、今回はその代表例としてストキャスティクスを取り上げます。

ストキャスティクスの計算式

ストキャスティクスは、一定期間の最高値と最安値の中で直近の時間足の終値がどの程度の水準にあるかを割合で示し、それを連続した線で結んだ“%K”を基本とし、%Kを加工した他の2つの線“%D”“%SD”からなります。ストキャスティクスでわかるのは、相場の方向性と勢いが基本になります。

(1)基本となる%K
ストキャスティクスの3つの線のうち、先ずはもっとも基本となる“%K”についてお話しします。
%Kは、過去のある一定期間内の最高値と最安値との差、すなわち過去のある一定期間内の値幅を分母とし、直近の時間足の終値の一定期間内の最安値からの値幅を分子として、その一定期間内の何%の位置に直近の時間足の終値があるかを示します。

数式で表現すると、
C1=直近の時間足の終値、L1=今の時間足から過去一定期間の最安値、H1=直近の時間足から過去一定期間の最高値とすると、

%K[%]=((C1-L1)/(H1-L1))×100

になります。

用いる時間足は、どんな時間足を用いても構いません。1分足なら1分足の、1時間足なら1時間足の、日足なら日足の%Kが得られます。また、過去の“ある一定期間”はパラメータと呼び、自由に設定できます。例えば、“5”であれば時間足5本分という形になります。パラメータを大きく取ると、滑らかな曲線になり、小さく取ると凸凹します。

(2)%Kの移動平均のイメージを持つ%D
厳密には異なりますが、%Kを移動平均したようなイメージで捉えることができるのが%Dです。%Dを数式にすると、少しややこしくなりますが、例えば%Dの期間を示すパラメータを“3”とした例では、

C1=直近の時間足の終値、C2=直近から1つ前の時間足の終値、C3=直近から2つ前の時間足の終値、L1=直近の時間足から過去一定期間の最安値 H1=直近の時間足から過去一定期間の最高値、L2=直近から1つ前の時間足から過去一定期間の最安値 H2=直近から1つ前の時間足から過去一定期間の最高値、L3=直近から2つ前の時間足から過去一定期間の最安値 H3=直近から2つ前の時間足から過去一定期間の最高値とすると、

%D(3)[%]=((C1-L1)+(C2-L2)+(C3-L3))
/((H1-L1)+(H2-L2)+(H3-L3))
となります。

この数式は、例えば3つのビーカーに入った塩水を混ぜ合わせたときの塩分濃度を計算する数式と同じような考え方で計算されていて、

%D[%]=((%Kに用いるその時間足の値幅の総和)/(%Kに用いる値幅の総和))×100

という意味合いになります。%Dの計算式が少しややこしいのは、考案した人が厳密に計算式を立案された故なのですね。

(3)%Dの移動平均%SD
%Dを更に移動平均したものが%SD(SLOW%D)になります。%SDの移動平均をとる期間を“3”とした場合の%SD(3)の計算式は、%D1=直近の時間足の%D、%D2=直近の1つ前の時間足の%D、%D3=直近の2つ前の時間足の%Dとすると、

%SD(3)[%]=(%D1+%D2+%D3)/3

となります。%SDは%Dの移動平均ですから、%Dに比べて動きが円滑化され、%Dに比べて遅くなり、価格の変化に対する追従性が悪くなります。%SDをスローストキャスティクスと呼ぶのは、この価格への追従の遅さゆえです。

ストキャスティクスの使い方

逆張りトレーダーに愛用され続けているオシレーターの代表インジケーター理想的なストキャスティクスの状態は、価格が上昇から下降する半分のサイクルに従って、ストキャスティクスも価格の上昇時には0%近辺から100%近辺に上昇し、価格の下降時には100%近辺から0%近辺に下降するという、価格との相関のある追随性を示していることです。ところが、相場の状況によっては、ストキャスティクスが50%付近でグネグネと上下を繰り返している場合、上昇の途中で折り返してしまう場合、100%付近や0%付近に張り付いて動かない場合などがあります。この状態ではストキャスティクスを参考にした取引をすることはできません。

この状況を打開するには、2つの方法があります。1つは、パラメータの変更です。%Kのパラメータでも、%Dのパラメータでもいいのですが、それを大きくするとストキャスティクスの値はゆっくり動きます。逆に小さくするとストキャスティクスの値は早く動きます。ストキャスティクスの動きが、見ている時間足の価格の上下に追従する様にこのパラメータを変化させて使用します。しかしながら、問題点は、過去の価格の上下の動きを用いてパラメータを決めることになるので、必ずしも未来の価格変動にそのパラメータが適合している保証はありません。一致する場合もある、程度の感覚でこの方法を用いられることをお薦めします。

次に、パラメータの値は変化させずに標準的なものを用い、ストキャスティクスの状況に応じて時間足を切り替えて用いる方法です。例えば、上昇トレンドの局面で、当初5分足のストキャスティクスが0%から順調に上昇を始め、100%付近まで到達してその値でほとんど動かなくなってしまったとします。その場合、例えば15分足や1時間足などより大きな時間足に切り替えると、ストキャスティクスはまだ上昇中でこちらが正しくトレンドを表しいていることがよくあります。逆に、ストキャスティクスが価格に追随できずに途中で折り返してしまったりしている場合は、時間足を小さくすると価格に追随しているストキャスティクスが見つかる場合があります。その場合は、小さい時間足のストキャスティクスを参考にして取引を行います。

私がストキャスティクスを用いて行っている取引方法は、パラメータを変えずに固定し、いくつかの時間足のストキャスティクスを同時に表示させて、どの時間足のストキャスティクスがどのような上下のサイクルに追随しているかを見る方法です。基本的には、小さい時間足のストキャスティクスは小さな波を捉え、大きな時間足のストキャスティクスは大きな波を捉えています。ただ、いくつかの時間足を見ているので、例えば5分足はストキャスティクスが上向きを示しており、15分足のストキャスティクスは下向きを示し、1時間足は上向きを示しているという一見矛盾しているような状況を示すこともよくあります。

そのような場合には、直近の相場状況に対するストキャスティクスの追随状況(合致状況)や、近い時間足での方向性の一致状況を総合的に勘案してどのストキャスティクスを信頼するかを決めます。例えば、5分足と15分足のストキャスティクスの方向性が一致していて、1時間足のストキャスティクスの方向性が逆行している場合には、とりあえず5分足のストキャスティクスの方向性に一致する方向にエントリーを行い、相場の動きの中でその後の進展を見ていきます。その後、5分足が100%近辺に到達し、100%付近に張り付いた状態になれば15分足のストキャスティクスに従ってポジションを保持しますし、5分足のストキャスティクスがピークやボトムを付けて折り返してくれば決済を行います。その場合でも15分足のストキャスティクスが継続した方向性を示し、5分足のストキャスティクスが反転すれば、再度ポジションを持つこともあります。

ゴールデンクロスとデッドクロス

ストキャスティクスの%D、%SDを用いて、ゴールデンクロスとデッドクロスによる取引を行うことができます。ゴールデンクロスとは、これから相場が上昇する前兆のサインで、買いエントリーのチャンスになります。具体的には、%SDが平行または上昇基調で、%Dが%SDを下から上へ抜いた時になります。ストキャスティクスの値としては、20%以下がお薦めです。デッドクロスとは、これから相場が下降する前兆のサインで、売りエントリーのチャンスになります。具体的には、%SDが平行または下降基調で、%Dが%SDを上から下へ抜いた時になります。ストキャスティクスの値としては80%以上がお薦めです。但し、ゴールデンクロスにしても、デッドクロスにしてもダマシがありますので、注意が必要です。

ダイバージェンス

ダイバージェンスとは、価格が下降しているのにもかかわらず、ストキャスティクスのボトムが切り上がっていたり、価格が上昇しているにもかかわらず、ストキャスティクスのトップが切り下がっていたりしている、価格とストキャスティクスが逆行する現象です。ダイバージェンスは、それまで上昇トレンドだった相場が下降トレンドになるなど相場が反転する前兆現象です。

買いエントリーのチャンスは、現在の%Dのボトムの値が直前の%Dのボトムより高い値にも関わらず、現在の価格が直前の%Dのボトムの時よりも低くなっていている時で、%Dが上昇を始めたときです。例えば、直前の%Dが15%、その時の価格が100円で、今の%Dが20%、今の価格が99円といった状態です。

売りエントリーのチャンスは、現在の%Dのトップの値が直前の%Dのトップよりも低い値にも関わらず、現在の価格が直前の%Dのトップの時よりも高くなっている時で、%Dが下降を始めたときです。このダイバージェンスにもダマシがあるので注意が必要になります。