アメリカがエルサレムをイスラエルの首都認定
2017年12月6日、アメリカのトランプ大統領はエルサレムをイスラエルの首都として認定することを正式に表明しました。それにともない、経済都市のテルアビブに置かれているアメリカ大使館もイスラエルに移転する方針です。この動きは、中近東を巡るアメリカの戦略が大きく変化する歴史的な日となりました。以前からアメリカでは、イスラエルを首都として認定する法案は議会で可決されていたものの、歴代のアメリカ大統領は正式に承認することは避け、中東の和平のためにあいまいにしたまま動いてきました。それが、今回のエルサレム首都認定によって、エルサレムを巡って対立してきたイスラエルやパレスチナをはじめアラブ諸国や近隣の国々との関係が悪化することが懸念されています。
今回、トランプ大統領の重大な動きは次の二点です。ひとつは、エルサレムが首都であると認定することは正当性があると表明したことです。イスラエルは現にエルサレムに国会や最高裁判所、首相官邸など国の重要施設を置いてきました。イスラエルにとっては事実上の首都がエルサレムであるという点は動かしようがないことでした。実際、トランプ大統領は選挙公約として首都を移転することを重要課題としていましたが、大統領就任後のイスラエル情勢を見ても中東和平の流れが一向に進んでいないことから、事実的な首都であるエルサレムを認めることでパレスチナ紛争の解決に向けて新機軸を作り出したい意図が見えます。
ふたつ目は、中東和平交渉を再開し、イスラエルやパレスチナ問題の解決へのプロセスを加速させると明確に表明したことです。イスラエル問題で鍵を握るイスラエルと対立しているパレスチナはエルサレムの東部地域を将来の首都にと掲げています。ただ、イスラエルの首都承認によって、パレスチナやアラブ諸国の反発は劇化することが予想されます。パレスチナの首都としても可能性を持たせた態度を示しているものの、イスラエルとパレスチナが同じ地域で国家を2つ存立させる和平への道はさらに困難になりました。
アメリカとトルコの際どい外交関係
今回のトランプ大統領のエルサレム首都承認について、真っ先に非難の声を表明した国がトルコです。以前からトルコのエルドアン大統領はアメリカを痛烈に批判して来ました。
エルドアン大統領は「アメリカは“民主主義の揺りかご”と言われるが、間違いだ。 アメリカは民主国家ではない」と述べるように、もともとNATOをはじめとした同盟関係にあるアメリカと真正面から対立する姿勢を見せています。
なぜアメリカとトルコはこのように関係が悪化してしまったのでしょうか。もともとトルコはヨーロッパとアジアの境界点に位置する重要な国です。かつての冷戦時代はソビエトから西側諸国を守る「防波堤」の役割を担っていました。最近ではシリアのイスラミックステート(IS。過激派組織)を両国が連携して軍事作戦を行い、テロへの撲滅を進めてきました。ただ、その軍事作戦において、アメリカはトルコがテロ組織と位置づけているシリアのクルド人勢力を支援したため、軋轢が生じます。続けて、トルコはNATO加盟国であるにも関わらずロシアから地対空ミサイルシステムを購入する方針を決めたことでさらにアメリカとの関係が悪化しました。
こうした流れの先に、今回のトランプ大統領によるエルサレム首都承認が起こり、エルドアン大統領からイスラム教徒として認められないと非難、イスラエルとの外交断絶も臭わせています。
これまでのトルコの政治・経済動向
トルコの大きな課題がアメリカとの関係改善をどこまで成功させるかに懸かっています。イランを巡るアメリカとの対立は、トルコによる経済制裁違反が象徴的です。核開発疑惑のあるイランにアメリカは経済制裁を続けてきました。しかし、トルコの国営銀行などの金融機関は経済制裁のルールを守らず、金融取引をしていた疑惑が持たれています。また、2016年には7月にトルコで発生したクーデター未遂事件の首謀者と思われるイスラム指導者ギュレン師をアメリカから強制送還するよう働きかけてきましたが、当時のオバマ大統領も現在のトランプ大統領も引き渡し要求に応じないままとなっています。
こうした対米関係の悪化がさらなるトルコの政治や経済に緊張を生んでいます。ただし、アメリカにとって中東を代表する大国のひとつであるトルコとの関係悪化はこれ以上避けたいのが本音です。軍事的にも中東和平の観点からもアメリカとトルコがそれぞれどう出るかが心配されています。
トルコリラはどう動くのか
対米トルコリラ相場はここ数年安値が続いてきましたが、転換点となったのが2017年4月です。トルコ国内で行われた国民投票によって新たな大統領制が承認され、政治面で明るい兆しが感じられたことからトルコリラ高に転じました。国内経済も景気がゆるやかに伸びておりトルコリラの価値はそのまま上昇するかに思われましたが、アメリカを始めとする諸外国との外交関係の悪化によって2017年9月をピークに急落を続けています。
トルコリラの下落によってトルコ国内のインフレ傾向が続いています。前年比+5%のインフレ目標中心値に対して、消費者物価(CPI)上昇率は2016年後半から上昇し続け、2017年の10月には前年比+11.90%と高止まりを続けたままとなっています。インフレ率が下がらない背景には強い内需が続いていること、さらにリラ安によって輸入物価が上昇していることなどが考えられます。
トルコリラは2017年11月に史上最安値を更新しました。もともと世界的に見ても高金利通貨として知られていて、外貨預金やFXでの人気が高いトルコリラですが、激しい値動きが落ち着かず今後の見通しが注目されます。
トルコリラに関わる大きな動きが2つあります。まず、為替介入が実施されていることです。トルコリラの安値が続くことから、トルコ中央銀行が為替介入に踏み切っており、30億ドルの外貨準備高を取り崩すとの発表から、トルコリラは上昇に転じています。2017年12月4日にはトルコリラ円相場29円台にまで戻しました。
また、12月14日に行われる「トルコ政策金利発表」で政策金利の利上げが行われるのではないかという見方が広がっています。トルコの政策金利は現在8%に設定されています。ただ、ここのところの急激なリラ下落を回復させるには、9%台への引き上げを実施しなければ相場の回復が見込めないと考えられます。
このようにもともと高金利通貨として人気のトルコリラが、為替介入や政策金利の利上げによってさらに価値が高まることが見込まれます。
今後の中東情勢によってトルコリラは極めて不透明
トルコリラは12月11日時点で対米相場が1ドル3.8リラ台前半、対円相場では29円台後半の値動きが続いています。アメリカやヨーロッパ諸国との関係改善が進まない限り、史上最安値まで下落したトルコリラの回復は難しい見通しです。為替介入や利上げによってどこまで国内経済を引き締められるかにも掛かっています。イスラエルのエルサレム首都認定によってさらに加速する中東情勢のなか、アメリカと対立を深めるトルコの動向が注目されます。