2017年11月22日の各種メディアで、KDDIが英会話教室のイーオンを買収すると発表したと報じられました。日本国内の携帯通信網を支える三大キャリアの一つである通信業界大手企業がまったく異なるジャンルの教育事業に参入するという新たな動きに、教育業界では大きなインパクトをもって受け止められています。ここではイーオン買収の背景と、ここ数年の教育産業の動向をご紹介します。

KDDIが教育事業に本格参入

岡山市に本社を持つイーオンホールディングスは、英会話教室で全国に300校を超すネットワークを持つ持ち株会社です。主要都市の駅前を中心に、ビジネスマンや主婦層一般には「英会話のイーオン」で知られる株式会社イーオンをはじめ、語学学校や語学教育関連事業のほか留学やホームステイの企画も行っています。

主要な英会話事業は1973年からスタート。英会話スクールの先駆けとして、きめ細かなレッスンが行われています。初心者から上級者までの能力に応じたレベル分けを徹底し、グループレッスンとプライベートレッスンを中心に英会話事業を総合的にプロデュースしています。イーオンの英会話レッスンは日本人の英語に対する弱点を徹底的に研究した上でプログラムが組み立てられています。「L&Aメソッド」と名付けられた日本人のための教授法に則ってレッスンが進められます。このメソッドの特徴は「話せる英語」「使える英語」を目指せる実践的なものです。日本人は学生の間に英語の授業や受験勉強を通して基礎的な英語力があるものの、それをうまく使いこなせていない人が多いのです。本来持っているはずの英語力を呼び覚まして英語で表現する喜びを体感できるようなレッスンです。英語表現のベースである文法を確認しながらロールプレイングなどを繰り返すことでしっかりした英会話ができるようになります。

また、日本人向けに開発されたイーオンオリジナルの教材が魅力的です。自社の「イーオン語学教育研究所」は長年いかに日本人がスムーズに英語力を高められるかを研究しており、その成果をオリジナル教材に反映されています。教材の特徴は、日本人が平均的に身につけている学生時代の英語力をベースにステップアップしやすいように工夫されています。「イーオン語学教育研究所」によって磨き上げたオリジナル教材とデジタルレッスンには豊富なコンテンツで楽しく学ぶことができ、多様なレベルや英語を学ぶ目的に応じた英語教育を実施しています。

KDDIの経営多角化戦略

KDDIによるイーオンの買収は数百億円規模で行われたと言われています。具体的な金額は非公表ですが、企業買収としては規模の大きなものです。買収は、イーオンホールディングスの創業家が保有する株式の100%をKDDIによって取得する契約締結により実現しました。日本を代表する電気通信事業を提供するKDDIは、一般的に携帯電話のauを展開する大手キャリアとして知られています。しかし、ここ一連の動きはM&Aによって経営の多角化を狙う戦略を色濃く見せています。KDDIの田中孝司社長は3年計画で企業の買収や合併であるM&Aを積極的に狙っていくと発表しています。その規模は5000億円で、2017年には9月までにNEC子会社でプロバイダのビッグローブやIoTベンチャー「ソラコム」の買収で2000億円が投じられました。

なぜ通信企業が英会話を買収するのか

KDDIがノウハウを蓄積しているAIやVRを英会話事業に活用ただ今回、なぜ携帯電話会社が通信事業とは関連性の薄い英会話教室を買収するのか、不思議に思うかもしれません。これにはまず大黒柱である通信事業そのものの成長性に陰りが見えているためです。総務省のデータによると携帯電話の普及率は日本全体で168.4%にもなり、もはやスマートフォンやタブレットによるユーザー拡大は将来的に厳しい局面を迎えることが予想されます。また、2017年9月末現在での国内携帯キャリア別のシェアではNTTドコモ46%、au30%、SoftBank24%で、三大キャリアは年々微増傾向にはあるもののそのシェアの割合はほとんど変化が出ていないのが現状です。このまま主要事業である通信分野に依存するのではなく、通信事業と非通信事業とを掛け合わせ、新たな事業拡大を狙うことが今後の経営戦略の主軸としていくのは納得できるものです。

KDDIは単に英会話教室としてイーオンを保有し現状路線を続けることは考えていません。イーオンホールディングスとKDDIがそれぞれ持つ企業としての強みをハイブリッドさせて、新たな英会話事業を展開することを目指しています。その大きな方針の一つがKDDIがノウハウを蓄積しているAI(人工知能)やVR(仮想現実)を英会話事業に生かしこれまでにないメソッド開発をすることです。具体的にはAIによって学習者の適性を把握し、多様なレベルのカリキュラムでもっとも適したものを選べるようにしたり、VR技術を取り入れた英会話レッスンによりよりリアルなシーン再現でレッスンが受けられるようになったりと、大手通信事業ならではのアレンジが計画されています。

こうした異分野同士の買収・合併劇は今後も加速することが予想され、KDDIの大規模なM&Aの流れはこれまで圧倒的な地位を築き上げてきた大手キャリアが次の一手を真剣に模索していることを明確に示しています。

関連銘柄の株式情報

KDDI【9433】
auブランドでおなじみの総合通信大手。斬新で軽妙なテレビCMや学生や若者への訴求力があり、若年層のユーザーに人気の高い三大大手キャリアの一つです。携帯電話のauを筆頭に光回線を提供するauひかりや光IP電話のケーブルPlusのほか、ケータイ向けのネット銀行「じぶん銀行」、格安スマホのUQモバイルやモバイル無線ルーターのWiMAXを展開するUQコミュニケーションズ、損害保険のau損害保険まで、多彩な事業を展開しています。

ここ数年でメディアで注目されたKDDIグループの問題には、2012年末から2013年5月の半年のうちにauの携帯電話通信で大規模な通信障害が続出し、総務省による行政指導が重なりました。また、2016年秋にはまとめサイト「WELQ」による著作権侵害問題が発生し記事内での引用の仕方についてメディアサイトの業界で大きな議論が巻き起こりました。この動きの影響でKDDIも子会社であるSupership運営のノウハウサイト「nanapi」の記事精査と一部非公開に踏み切りました。

2017年12月現在の株価は3200円前後で推移。11月22日のイーオン買収が報じられると11月21日に2996.5円だった終値が連日伸びを見せ、約1週間で200円上昇、年初来安値2840円(2017年4月17日)から年初来高値となる3260円(2017年12月1日)へと堅調な動きとなっています。

英会話スクールといった教育事業という畑違いの分野にKDDIのような大手通信事業者が新規参入したことは今後の通信業界に大きな影響を与えていくものと思われます。KDDIの積極的な企業買収や合併戦略は、既存の通信事業だけでは将来性が心許ない時代に入ってきたことを確実に提示するものです。数百億円規模で買収したイーオンの英会話ノウハウや巨大なネットワークをどこまでKDDIが生かし切れるかに注目が集まります。