高級天然魚の需要増加によって養殖魚への注目が高まっています。均一の品質の魚を安定して市場に供給できるため、低迷する水産業界にとって養殖魚の生産を推進することで地域のブランド魚を確立するとともに、水産分野の売上を安定化させることができます。全国的に養殖魚に力を入れる企業や自治体が増えており、なかには産官学の連携で完全養殖に成功するケースも見られるようになりました。以前は養殖が難しいと言われていた魚種であっても養殖技術の向上により養殖魚から採卵し養殖魚を成育させるサイクルを確立させる例が出ています。

完全養殖に成功した佐賀の「唐津Qサバ」とは

佐賀県唐津市と九州大学は完全養殖技術を共同研究した結果「唐津Qサバ」を誕生させました。唐津市は玄界灘の豊かな漁場を持ち、マサバの水揚げで知られていました。ただ、近年、天然マサバの漁獲高が減少傾向になり、水産資源の保護や安定した市場供給が課題となっていました。もともとマサバは養殖が難しいとされてきましたが、この悲願を実現させたのが「唐津Qサバ」です。完全養殖のマサバには次のようなメリットがあります。

食中毒の心配がほとんどない
サバを生食すると当たりやすいため、全国的に酢でしめたり焼き魚や煮付けで食べられています。九州や北陸、瀬戸内の一部では郷土料理で生食する文化が残っていますが、新鮮なサバが手に入ることが条件です。食中毒が起こりやすいのはサバにアニサキスという寄生虫がつきやすいためですが、完全養殖をするとエサを人工管理できるのでアニサキスがサバに入るのを抑え込むことができます。事実、2017年10月までに出荷された約2万尾の「唐津Qサバ」でアニサキスが見つかった例はまだありません。サバの生食を避けてきた地域でも安心して刺身でサバを食べられるようになる日が近くなっています。

味よし脂ののりよし
天然サバは季節や漁場によって水揚げされる魚の品質や脂ののりにばらつきがあります。水温や食べるエサが一年を通して安定しやすい完全養殖なら、味も一定にしやすく脂ののりもよいのが特徴です。「唐津Qサバ」はいつ食べても脂ののった甘味を感じられます。

新鮮な活魚のまま出荷できる
養殖のいけすから活きているサバをそのまま活魚車で市場に出荷できます。新鮮な活魚を料理旅館や居酒屋で刺身にして提供でき、エサを人工管理しているため臭みもほとんどありません。

「唐津Qサバ」は唐津市水産業活性化支援センターが中心となり『新水産資源創出研究プロジェクト』の一環として開発に成功しました。2014年に始まった「唐津Qサバ」の出荷はまだ唐津市内の旅館やホテル、飲食店が中心ですが、最近では福岡市内の居酒屋や割烹でも食べられる店が増えています。今後も生産体制を安定化できるよう注力していて、2017年の出荷シーズンには前年の3〜4倍の出荷量を見込んでいます。

JR西日本はカキやサバの陸上養殖に成功

養殖産業に見る産官学の動きと投資の可能性養殖業界で今注目されているのが、海上や浜辺ではなく陸で養殖をする「陸上養殖」です。海を泳ぐ魚や貝類を陸上で養殖するメリットは大きく、水質やエサの管理が徹底できるため細菌や寄生虫のリスクが抑えられること、天候の影響がないため安定して出荷ができることなどがあります。

広島県の大崎上島でJR西日本などがカキの陸上養殖をスタートさせました。「オイスターぼんぼん」(ぼんぼん=おぼっちゃま、のように愛されて育てられたカキ)と名付けられ、生食向きのカキを地下から汲み上げた海水を塩田跡に流して養殖しています。地下から汲み上げた海水は地層で濾過されて水質が磨かれており、カキの生食で心配されるノロウイルスなどの細菌リスクがコントロールできます。

鳥取県栽培漁業センターで陸上養殖される「お嬢サバ」もJR西日本がプロジェクトに参加しています。箱入り娘のお嬢様のように大切に育てられた悪い虫の付かない養殖サバというコンセプトからネーミングされたブランド魚です。2012年に始まった5カ年の中期経営計画以来、西日本の地元ブランドの開発や普及に力を入れているJR西日本では、「オイスターぼんぼん」や「お嬢サバ」をはじめ養殖分野への展開が目立ってきています。

近大マグロで有名な近畿大学による養殖技術

近大マグロで世間を賑わせた近畿大学水産研究所の富山実験場に注目が集まっています。富山県射水市にある施設では、かねてよりさまざまな魚種の陸上養殖研究が盛んに行われています。2012年には陸上養殖に成功したマアナゴの出荷が富山県内で始まりました。富山ブランドにこだわり、富山湾の深層海水や富山の名産シロエビを養殖に利用しています。

陸上養殖の初出荷を受けて、いよいよ世界初となる穴子の完全養殖への研究も本格化しており、天然産稚魚に頼らない養殖魚だけの養殖サイクル確立へと動き出しています。寿司ネタや天ぷらでよく食べられるアナゴは養殖の割合が非常に少なく、天然ものに依存しているのが現状です。今回の陸上養殖の成功は、アナゴの完全養殖への道を大きく前進することとなりました。

富山名物「ます寿司」も養殖マスへ

近畿大学の陸上養殖の展開はサクラマスでも成功を見せています。富山県は「ます寿司」をはじめサクラマスがよく食べられてきた地域ですが、長年海外産の輸入に依存しており、古くから養殖化が期待されてきました。富山県入善町で地元の漁協と共同でサクラマスの養殖を本格化、2017年春には初めての出荷がありました。養殖技術は他の陸上養殖と同様、不純物が少なくミネラル分が豊富な海洋深層水が使われ、安心して食べられる富山産のサクラマスが広がりつつあります。産と官を巻き込んだ近畿大学の養殖への飽くなき挑戦は、今後の日本の食卓を大きく変えることが期待されています。

養殖が海だけのもという時代は過ぎ去り、今後は安定して供給可能な陸上養殖が増加すると思われます。JR西日本や近畿大学など名だたる企業や大学が地元の行政や漁協、メーカーと共同して完全養殖を成功させており、今後もその動きは加速するでしょう。

養殖業界の関連銘柄情報

JR西日本【9021】
山陽新幹線や北陸新幹線の一部を運営、日本の陸運業を支えています。連結事業は運輸業を中心に流通業、不動産業などです。福知山線事故によって会社への信頼に不安が高まって以来、運行の安全性や企業ブランドイメージ高める努力が続けられています。訪日外国人観光客の増加によってJR西日本での利用客は増加傾向にあり、新幹線と在来線ともに好調です。ホテル建設にも意欲的で、2019年には京都駅付近に新ホテル開業が予定されています。2017年12月現在の株価はおよそ8,200円前後で推移しており、この1年で2,000円近く上昇しています。

豊田通商【8015】
トヨタ系列の総合商社で、営業利益のうち約70%が自動車関連事業です。養殖業界で注目されたきっかけは、近大マグロの成功から。2010年から近畿大学と業務提携をして以来、クロマグロの養殖事業に力を入れており、近畿大学の指導でもと初の「近大マグロ」認定を得ました。2017年12月現在の株価は4,200円前後で推移しており、ここ1年で1,500円近い上昇を示しています。