FRB議長人事がFX市場に与える影響

米国FRBの次期議長にジェローム・パウエル氏を指名

FXの米ドル相場の変化に影響を与えるアメリカのトランプ政権のファンダメンタル要因として「FRB議長人事」が持ち上がっていましたが、次期FRB議長はジェローム・パウエル氏に内定しました。FRB議長人事は米国経済の基礎的要件として雇用統計と並ぶほどに重要なものと見なされることもありますが、それは世界の基軸通貨である米ドルに対して金融政策の意思決定をする権限を持っているからです。FRB(米国連邦準備制度理事会)が金融緩和策である「マネタリーベース(通貨供給量)の増加」や「政策金利の低さ(低金利政策)」を続けるのかどうかによって、米ドルの相対価値は変化することになります。

ドナルド・トランプ大統領は米国経済が「株価上昇・雇用改善・物価上昇」によって好景気な状態にあってもなお、景気刺激策である低金利政策の延長を希望していると伝えられています。FRB議長が誰になるかで利上げの時期や程度が若干変わる可能性があったことで議長人事が注目されていました。

現在の米ドル/円の為替相場は、特に雇用統計の「労働者の平均時給の伸び率」とFRBが策定する「長期金利(長期国債の金利)」に連動しやすくなっているので、FRBが利上げの時期を早めたり利上げの金利幅を高めたりすることがあれば、米ドルは途端に買われやすくなります。11月現在の米ドル/円は「114円」前後で攻防する抵抗線を容易には超えられませんが、利上げで米国経済の勢いが確証されれば、ドル買いが入って米ドルは上昇しやすくなるでしょう。

ハリケーン被害による一時的な雇用悪化(物理的に就労困難となる自然災害のアクシデント)はありましたが、米国経済と株式市場の現在の好調を考えれば年内12月の利上げ実施はほぼ確実という見方は変わらないでしょう。

FRBとはどのような組織なのか?

ジェローム・パウエル次期FRB議長の金融政策を注視FX投資のファンダメンタルズ分析の経済指標や世界の経済・金融のニュースでは、アメリカの「FRB(The Federal Reserve Board,米連邦準備制度理事会)」という米国の金融制度に強大な影響力を持つ銀行組織のキーワードが繰り返しでてきますが、実際にはどのような役割と構成員を持つ組織なのでしょうか?

FRBのFX・為替相場に対するファンダメンタルの影響は、特に「政策金利(FF金利)の引き上げ」によるものが大きくなります。FRBの最高意思決定機関である「FOMC(連邦公開市場委員会)」で「低金利の金融政策の現状維持を決めて、追加利上げを見送った」というニュースが流れると、為替市場で「米ドル買いのロングポジション(値上がり期待)」は減りやすくなります。端的にはドル安に誘導されやすくなり、円高ドル安のトレンドがでるので、日本人のFXトレーダーにとっては参加しやすい相場状況になります。

FRBは日本銀行(日銀)と同じアメリカの中央銀行(中央銀行制度の最高意思決定機関)に当たる銀行組織です。1913年、第28代ウッドロウ・ウィルソン大統領の時にオーウェン・グラス法に基づいて発足したもので、「米国経済の安定と発展(通貨供給と通貨価値の維持・物価の安定・雇用の最大化)」を目標にしています。日本では「連邦準備制度理事会」と呼ばれます。連邦準備制度という言葉は耳慣れないものですが、自治権の強い州から為る米国の連銀制度における「中央銀行制度」のことで準備とは「(金融機関の支払い能力を中銀への預入金で担保する)預金準備制度」を意味しています。

大統領が任命する7人の理事で構成され、その1人が議長として金融政策を統括しますが、中央銀行業務の実務はFRBの下部組織である全米12の連邦準備銀行が担当します。
中央銀行として通貨発行や政策金利(FFレート)の変更などを行い、米国の景気(通貨価値・物価・雇用など)を調整するのですが、「予算・人事の独立性」が保証されているので連邦議会からの指示命令を受けないという特徴があります。

次期FRB議長となるジェローム・パウエル氏はどのような人物か?

FRBは議会からの独立性を持ち、FRB議長は米国の金融政策を策定・実施する最終権限を持つため、米国経済と世界経済に大きな影響力を及ぼすと同時に(基本は米国ファーストとはいえ)世界経済に一定の責任を負っています。

トランプ大統領がFRB議長に指名したのは、ジャネット・イエレンFRB現議長やスタンフォード大のジョン・テイラー教授(利上げを急ぐタカ派)ではなく、自身の望む金融緩和政策にある程度歩み寄ってくれると見たジェローム・パウエル現FRB理事でした。現職のイエレン議長も「ハト派・金融緩和維持派」なので、トランプ大統領と政策上の対立は少なかったと思われますが、イエレン議長はクリントン政権時代から民主党と距離が近く、前オバマ政権によって指名された議長なので、オバマケア撤回を含めて「オバマ前大統領のレガシー」に否定的なトランプ大統領が再選を渋った面もあります。

イエレン議長はリーマンショック後の量的金融緩和と超低金利政策で米国経済を立て直した功績は評価されるべきですが、近年の米国経済の拡大局面において「利上げ(金融引き締め)の意思決定」を曖昧にしている点について利上げを急ぐタカ派からの批判もあります。

弁護士・銀行家であるジェローム・パウエル次期FRB議長は、共和党のジョージ・W・ブッシュ政権で財務省高官を務めたキャリアがあり、現FRB理事の中で唯一の共和党員ですが、金融政策では金融緩和維持派(利上げに慎重)のイエレン議長に同調する人物(反対票を入れた経験はなし)として知られています。ジェローム・パウエル氏が次期FRB議長に指名された理由としては、「共和党に近いこと・トランプ大統領の望む低金利政策に同調的なこと」や「厳しい規制のドッド・フランク法の金融規制緩和に前向きなこと,イエレン議長の金融緩和策と連続性があること」を上げることができるでしょう。

ジェローム・パウエルのFRB議長人事で「金利政策・米ドル」はどう動くか?

3人の有力候補が挙がっていたFRB議長人事に際して、FX(米ドルの為替レート)に対する影響の見取り図は以下のようになっていました。

ジャネット・イエレン……金融緩和(低金利)に親和的なハト派。インフレ率はあまり重視せず、緩やかな金利上昇を慎重に判断するため、「ドル安円高」の為替になりやすい。

ジェローム・パウエル……金融緩和(低金利)に親和的なハト派。イエレン議長の金融政策判断に反対票を投じた経験はない。緩やかな金利上昇を慎重に判断するため、「ドル安円高」の為替になりやすいが、金融緩和の出口戦略で「ドル高円安」に転じる可能性は高い。

ジョン・テイラー……金融引き締め(金利引き上げ)に親和的なタカ派。インフレ率と経済成長率の「望ましい水準からの乖離」をベースにして目標金利を設定すべきとするテイラー理論を主張している。現在の米国のインフレ率の好景気であれば利上げを急ぐべきと判断するため、「ドル高円安」の為替になりやすい。

ジェローム・パウエル次期FRB議長の人事は、ファンダメンタル要因としては利上げペースが遅くなれば「ドル安円高」と見られていますが、この人事はすでに市場に織り込まれているため、米ドル/円が大きく下落する可能性は低いでしょう。翌2018年の利上げを、為替市場はまだ1回程度しか織り込んでいませんが、FOMCの理事メンバーの金利予想では「3回の利上げ」も有り得るとする予想も多く、パウエルFRB議長が誕生しても「ドル売り(ドル安)」が長く続くとは考えにくいからです。

パウエル次期FRB議長の金融緩和の出口戦略

パウエル次期FRB議長がいくら金融緩和に親和的なハト派であっても、「米国経済の現在の好景気・株価上昇・インフレ率・雇用拡大」を見れば、低金利政策を長く続けられないことは明らかで、行き過ぎた金融緩和の持続には「大きな副作用」が生じる恐れもあります。

グリーンスパン議長時代のFRBは景気回復の金融緩和を拡大し過ぎて、2007年のサブプライムローン危機、2008年のリーマンショック、財政赤字拡大の遠因を作ったわけで、過熱した景気を抑制しない金融緩和には問題が多いのです。パウエル次期FRB議長に課せられる使命は、イエレン議長が手がけてきた「景気刺激の金融緩和」に対する出口戦略になってきます。「緩やかな金利上昇+通貨供給量の削減(FRBによる国債購入などの資産縮小)」に基づいて、リーマンショック後の危機対応で大幅に緩和していた金融政策を正常化させられるかという難しい「出口戦略」が求められているのです。

米国のファンダメンタルは中期的に「利上げによるドル高」を示唆していますが、北朝鮮問題の地政学的リスクは、ICBMが米国西海岸を射程に入れていることから、緊迫化すれば「ドル安要因」になりやすいので注意が必要です。日本の方が地理的に近いので北朝鮮のリスクが高く感じられるのですが、市場は紛争リスクの当事者を米国と北朝鮮だと見なしています。1980年代までは「有事のドル買い」でしたが、9.11の同時多発テロで米国の世界覇権が揺らぎ戦争リスクも増えた2000年代からは「リスクオフの円買い」になりやすくなっています。

トランプ大統領の税制改革(企業減税)・金融規制緩和も「ドル高」の要因ですが、パウエル次期議長が金融引き締めで「FF金利(短期金利)」を上げれば「長期金利(10年国債金利)」も上がり、「ドル買い」の動きが市場で暫く強まるでしょう。