株の売買は「4営業日目決済」が基本ルール
株を買った時、買うのに必要な代金はいつまでに支払えばいいのでしょうか? 反対に、株を売った時、売った代金はいつ、支払われるのでしょうか?お店のように、その日のうちに支払いを行わなければならない「即金決済」ではありません。その答えは「4営業日後」です。日数の計算は、次のようにして行われます。
・売買が成立した日も、1日に数える。
・「営業日」の順に4つ数える。土曜日、日曜日、祝日、年末年始(12月31日~1月3日)は営業日に数えずに、飛ばす。
・売買が成立した日を含めて4つ目の営業日が、その売買の決済を行う日
たとえば、祝日のない週の月曜日に成立した売買の決済は、「月、火、水、木」で4つ目の営業日の木曜日に行われます。水曜日に成立した売買の決済は、「水、木、金、(土、日を飛ばして)月」で、4つ目の営業日の翌週の月曜日に行われます。「4営業日後」に、株を買う時には売買代金(株価×株数)に「証券会社に支払う売買手数料+消費税」を足して、証券会社に支払います。あるいは証券会社のあなたの口座から引き落とされます。
株を売る時には売買代金(株価×株数)から「証券会社に支払う売買手数料+消費税」が差し引かれて、証券会社を通じてあなたの口座に振り込まれます。証券会社に支払う売買手数料には、売買した当日に証券取引所に注文を取り次いだ手数料だけでなく、後で売買代金の決済を行う際の手数料も含まれています。
この「4営業日後の決済のルール」は、証券会社と投資家が銀行の破たんや大災害の発生や戦争の勃発などどんなことが起こっても守り抜いてきました。そうやって「証券界はルールをきちんと守るところ」という、株式投資への信用を築いてきました。
ネット証券では買い注文は「先に振り込む」
しかし、「4営業日後のルール」はあくまでも原則です。大手企業などの機関投資家ではなく個人投資家の買い注文の場合は、4営業日後の決済ではなく、株を買うのに必要な売買代金(株価×株数)を事前に、引き落とされてもいいように証券会社のあなたの口座に用意しておくことが求められる、と思ってください。買い注文が「4営業日後の決済」にしてもらえるのはむしろ特別扱いです。その証券会社とのおつきあいが長く、専任の営業担当者がいて、何百万円もの株の売買を頻繁に行っている「大事なお客様」と認められるまでは、おあずけです。
個人投資家がよく利用する、カブドットコム証券、楽天証券、松井証券、マネックス証券などのネット証券会社では、事前に口座に売買代金分を入れておかないと買い注文ができないようにシステムが設計されています。それを「完全前受制」と言います。例外もありますが、「買い注文の売買代金は、注文する前に証券会社の自分の口座に用意しておく」と覚えておいてください。
一方、売り注文を出して売買が成立した場合ですが、個人投資家であっても必ず「4営業日後の決済」です。ネット証券会社でも、株を売った売買代金がその日や翌日に口座に振り込まれることはありません。「そんなの不公平だ」だと思わないようにしましょう。あなたが売り注文を出した株を買った、誰だか正体はわからないその相手は、たとえば大手企業などの機関投資家で、ルール通りに4営業日後に売買代金を支払って決済しているかもしれないからです。証券会社によっては、もし次に株を買うための資金が必要なら、4営業日後まで待たなくても株を売った時の売買代金を立て替え払いしてくれるサービスを提供していますが、タダではありません。手数料が必要です。
同じ資金で同じ株は1日1回しか売買できないルール
株の売買の決済の「4営業日目」の基本ルールがわかったところで、別のルールもぜひ理解して、覚えておいてください。それは同じ資金で同じ株を1日に1回しか売買できないという「差金決済の禁止」というルールです。わかりやすくするために、ここでは証券会社に支払う売買手数料を除いて考えます。たとえば、ある個人投資家が50万円の資金を持っていたとします。ある日の午前10時、株価3000円のA株を100株、売買代金30万円で買いました。そして午後1時、株価が3200円に上がったところで売りました。売って得たのは32万円で、差額の2万円が儲けになります。株を買ったその日に売ることを「デイトレード(デイトレ)」と言いますが、それはルール違反ではありません。個人投資家でもそれをやっている「デイトレーダー」はたくさんいます。
A株は1時間後のその日の午後2時、株価が2900円まで下がりました。「また上がる。チャンスだ」と思って、再び買い注文を出そうとしましたが、ネット証券会社から「差金決済になるので注文できません。9万円を口座に入金すれば、注文できます」と通知が来て、注文は受け付けられませんでした。「1時に売り注文を出して売買が成立して32万円を得て、その時点で52万円の資金を持っているのだから、2時にA株を29万円で買うことはできるのではないのか」と思うかもしれませんが、できないのです。トヨタ自動車などは名古屋証券取引所でも上場しているので「東京がダメなら名古屋があるさ」で名証に注文を出そうとしても、ダメです。大阪証券取引所は、今はもうありません。
なぜそうなるのかというと、売って得た32万円は「形の上で得ているけれども、同じ株を買うのには使えない」状態になっているからです。その時点でA株を買うのに使える資金は、もともとの50万円から10時にA株を買うのに使った30万円を引いた、20万円なのです。1時にA株を32万円で売っても、52万円にはなっていません。20万円では、2時にA株を29万円で買うには9万円足りません。だから、事前に口座に売買代金分を入れておかないと買い注文ができない「完全前受制」のネット証券会社は、注文を拒否したというわけです。そして「9万円を口座に入金すれば注文できます」と、親切に教えてくれたのでした。
その日に買い注文を出すのをあきらめて、翌日にA株を買う時は、9万円を口座に入金しなくても注文できます。日付が変わると、A株を買える資金は20万円から52万円に増えています。同じ資金で同じ株は1日に1回しか売買できませんが、日が違えば同じ資金で同じ株を何度も売買できます。なお、この例は「買い→売り→買い」が禁止されていますが、同じ日に同じ株の「売り→買い→売り」も、差金決済として禁止です。
なぜ、株では差金決済ができないのか?
株以外の投資商品では、差金決済の禁止のルールを設けていないものもあります。同じ日に同じ投資商品を何度も売買でき、たとえば「1万円の儲け」「2万円の損」「3万円の儲け」「1万円の損」だったら、「+1+(-2)+3+(-1)=+1」と通算して1万円の儲けが残るという計算で、最後に決済をします。差額を合計して一度に決済するから「差金決済」なのです。
たとえばFX(外国為替証拠金取引)や商品先物取引などは、差金決済ができます。FXの対象になる通貨は米ドルやユーロから「ハンガリー・フォリント」のようなものを含めても30~40種類ぐらいで、商品先物取引は金などの貴金属や小豆などの農産物が対象で、決済期限(限月)別に分かれていても100種類を少し超えるぐらいです。東証1部だけで2000以上ある株と比べると投資商品の数が圧倒的に少ないこともあり、同じ資金で同じ投資商品を何度も売買する差金決済が認められています。
なお、株でも「日経平均先物」「TOPIX先物」のような先物や「信用取引」という方法では、差金決済ができます。株の場合、差金決済が禁止されているのは、同じ投資家が同じ株の売買を繰り返す「回転売買」による相場の過熱を防ぐ目的や、投機的な(ギャンブル的な)取引を抑えるという目的があります。禁止は証券取引所や証券界の自主規制ではなく、「金融商品取引法第161条の2に規定する取引及びその保証金に関する内閣府令第10条」という法令で、決められています。
違う株なら売買できる「ループ注文」
では、ここに挙げた例で1時にA株を売った32万円で、2時にA株ではなく、別のB株を買おうとしたら、どうなるのでしょうか?それは「差金決済」にはならず、禁止されていません。問題なく注文できます。10時にA株を買った時の残りの20万円ではなく、その時の合計資金52万円の範囲内で、B株は自由に買うことができます。A株を売って得た32万円は「形の上で得たけれども、同じ株を買うのには使えない」状態になっていますが、「別の株を買うのには使える」状態です。だから残金の20万円と合わせた52万円を、その日のうちにB株を買うのに使うことができるわけです。
そんな買い方のことを「ループ注文」とか「サーフィントレード」と言っています。ただし証券会社によってはこれも自主規制して注文を受け付けていないことがありますので、注意してください。株の売買には、「4営業日後の決済」「差金決済の禁止」以外にも、こまごましたルールや決め事があります。それは証券会社に問い合わせれば、親切に教えてくれます。