GPIF(年金積立管理運用独立行政法人)の資産運用成績が好調です。2016年度の運用決算が発表され、7兆円を超える大幅な黒字を達成。前年度の5兆円の赤字から一気に黒字転換し、同法人に対する社会の目も変わってきています。GPIFの堅実な資産運用法は、規模こそ違え、私たち個人投資家にも学ぶべき点が多いはず。そこで今回は、GPIFの運用成績をもとに投資の基本である「分散投資」について考えてみます。
GPIFとはどんな組織なのか
GPIFとはGovernment Pension Investment Fundの略で、正式名称を年金積立管理運用独立行政法人といいます。所管は厚生労働省で、かつての年金福祉事業団が廃止されたのに伴い2001年から年金資金運用基金に改組され運用開始。さらに2006年に同法人が設立され、年金積立金の管理・運用業務を引き継いだものです。運用総資産は、2016年度末現在144兆9034億円で、世界最大の機関投資家と呼ばれています。
2015年度の運用成績において、約5兆3000億円の赤字を計上したことから、年金資産をリスクのある株式の比率を高めて運用することに、社会的批判が集中したのは記憶に新しいところ。それが2016年度の大幅な黒字転換で、現在は批判の声も沈静化しています。
2016年度末における国内株の保有上位銘柄は以下の通りです。
●GPIF国内株保有残高上位10銘柄(時価総額ベース) 2017年3月31日現在
1 トヨタ自動車 1兆2200億円
2 三菱UFJフィナンシャルグループ 8222億円
3 NTT 5983億円
4 本田技研工業 5334億円
5 三井住友フィナンシャルグループ 5323億円
6 ソフトバンクグループ 5161億円
7 みずほフィナンシャルグループ 4983億円
8 KDDI 4426億円
9 ソニー 3534億円
10 ファナック 3438億円
では、GPIFの分散投資の手法を見てみます。
分散投資1 【銘柄の分散】超分散投資も中心は王道的銘柄
GPIFの保有銘柄数は国内株2,207銘柄、外国株2,621銘柄の計4,828銘柄。国内株においては主要な銘柄はほとんど保有していると考えて良いでしょう。上記の一覧を見ると、超分散投資でリスクを抑えながら、王道的な優良株には集中的に投資しています。トップのトヨタは世界の株式時価総額ランキングで日本株の最高位ですので、GPIFがもっとも多く投資しているのも頷けます。
株式投資はギャンブルではありませんので、仕手株や値動きの激しい銘柄に集中投資するのは危険です。上記の10銘柄はいずれも日本を代表する超優良銘柄であり、配当も多いことから、保有しているだけで高いパフォーマンスを得ることができます。ちなみに外国株ではアップルがトップで、約6600億円を保有しています。個人がポートフォリオを組む場合も、ベースを王道的な優良株で固めることによって、安定した運用が可能になります。その上で、株主優待などお好みの銘柄を追加していけば、より充実した投資生活を送ることができるでしょう。
分散投資2 【市場の分散】国内株、外国株、債券に分けて安全運用
GPIFは市場の分散もしっかり行なっています。2016年度末の各市場別の保有割合は、国内株式23.28%、国内債券31.68%、外国株式23.12%、外国債券13.03%、短期資産8.89%。株式の保有割合は46.4%となっていますが、これは基本ポートフォリオにおいて株式の運用比率が50%までに制限されているためです。したがって株式市場がどのような大相場になっても、50%以上買うことはできません。もったいない気がしますが、債券が半分を占めることによって、暴落時に下支えできるのです。私たちが個人で買う場合も、市場の分散はきちんと行なうべきです。
分散投資3 【時間の分散】長期投資基本も、短期債で機動的投資
GPIFの運用方針は、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイよろしく長期投資が基本です。株式は後述するソニーのように優良な銘柄であれば業績の伸長とともに、株式分割や増配で複利的に元本が増えていきます。もちろん業績や株価が低迷する時期もありますが、長い目で見れば回復局面で相殺され、期間が長いほど高いパフォーマンスを得られるのです。
一方、短期投資商品で毎年回収していく機動性も必要です。GPIFもすべてが長期投資ではなく、短期債でも運用しています。私たちが普通に利用している銀行の定期預金でも、1年物より5年物の方が利率は高いのですが、家庭の事情によって資金が必要になることもあるでしょう。5年の長期になると解約リスク(利息の減額)も高くなってしまいます。1年満期の金融商品を何本か持っていれば、満期を待って受け取ることができ、リスクを回避できます。これが短期商品をポートフォリオに含めておくことの重要性なのです。
ほかに個人であれば先物取引で時間の分散を図るのも良いでしょう。
GPIFの運用成績はどうなっているの?
次に、GPIFの具体的な運用実績を見てみましょう。2016年度単年と、2001~2016年の通算運用成績は以下の通りです。
●GPIF運用実績データ
【2016年度運用成績】
・運用資産総額 144兆9034億円
・2016年度運用収益 7兆9363億円
・運用収益率 5.86%
・利子/配当収入 2兆5334億円
・同利回り 1.75%
〈2016年度概況〉
2016年度の運用収益は7兆9363億円で、2年ぶりに黒字決算となりました。株式市場が好調だったこともあり、運用収益率は5.86%と高い数字を記録しました。
5%以上の高利回りは、世界的金利低下の現在では外国債券でもめったにありません。
【2001~2016年度通算運用成績】
・2001~2016年度累積収益額 53兆3603億円
・2001~2016年度累積利子/配当収入 28兆808億円
・運用収益率 2.89%
〈2001~2016年度累積概況〉
16年間の総合成績では、黒字を勝ち、赤字を負けとした場合の勝敗は10勝6敗とまずまず良好な結果。最大の損失が2007年度の約5兆5000億円。これに対し最大の利益が2012年度の約11兆2000億円で、傾向としては黒字の年の方がプラス幅が大きいため、16年間の累積損益は53兆3603億円の大幅な黒字を達成しています。運用収益が2.89%では低いという声もありますが、私たちの大事な年金資金を運用するのですから、安全第一を心掛けるのは当然のこと。3%近い収益率であれば、この超低金利下では立派な運用利回りといって良いでしょう。
GPIFの成功は、株式投資の社会的地位向上に有意義
GPIFの運用も、当初は株式の比率は低いものでした。それが組み入れ比率50%までに方針転換したことは結果的に成功を収めています。これは株式投資の社会的地位向上のために、極めて有意義な事象といって良いでしょう。為替相場には「お金を儲けの道具にする」という後ろめたさが付きまといます。投機的な動きで行き過ぎた円高になれば、輸出企業の収益を悪化させ、株価の下落を招くことにも繋がります。原油や穀物などの商品相場であれば、極端な値上がりは社会的コスト負担の増大を招き、国民生活にも支障をきたします。
その点、GPIFをはじめ、株が上がって困る人はいません。個人なら株主優待で生活が豊かにもなります。日本経済を活性化させ、広い目で見れば国民の利益にもなるのです。株式こそ投資の王道としてもっとも有利な運用先であることは、過去の数字が証明しています。例えばGPIF保有9位のソニーを上場時に1,000株買っておいた人は、その後の度重なる株式分割(昔は無償増資と呼んでいました)と増配、値上がりなどで、保有しているだけで億万長者になった事実があります(現在まで1度も売らずに保有していた場合)。このようなパフォーマンスは他の投資商品ではあり得ません。
当サイトを通じて一人でも多くの方が株式投資(信託商品を含む)の魅力や有利性に気付かれ、GPIFの堅実な運用方法をお手本にしながら、資産を増やしていただくことを願っています。