配当所得にかかる税金の具体的対策

配当所得の申告方法に関しては、所得税の確定申告においては

「株式投資配当所得のお得な確定申告の方法とは|勝つために学ぶ株式投資の教科書」

で3種類の申告方法があり、どの方式で申告すると有利かをケース別に説明しました。課税所得が900万円以下であれば総合課税方式が有利であり、そうでなければ申告不要制度が有利です。また後者の場合でも、上場株式等の売買損失があれば申告分離課税が有利になります。上記においては所得税に絞って有利なケースを紹介しており、住民税その他において有利なケースは考えておりませんでした。住民税の申告は、税金だけでなく利用できる社会保障制度にも影響を及ぼすので、所得税以上に選択すべき方式をよく考えたほうがいいです。

住民税申告では総合課税は好ましくない

所得税では総合課税を選んだ場合が良いケースも多々ありますが、住民税ではまずメリットがありません。総合課税の住民税率は標準税率で10%であり、住民税額の引き下げができる配当控除は配当所得の2.8%です。差し引き7.2%であり、もらう際に源泉徴収される税率5%を上回ります。名古屋市のように住民税率が0.3%低いところでも同様です。所得税と住民税で異なる方式を選択すると手続きが面倒になることは確かですし、課税所得が695万円以下の場合は、(住民税を総合課税にしたとしても)所得税でのメリットが住民税におけるデメリットを上回ります。ただ所得税で総合課税を選んだ場合、住民税申告を別途(できれば確定申告よりも先に)行って総合課税を避けたほうが得策です。

基本は申告不要にしたほうがいい

申告不要制度が選べる場合、住民税申告の基本は申告不要制度の活用です。これは社会保障制度において保険料や所得制限等を左右する所得情報は、所得税でなく住民税の申告情報であるからです。例えば国民健康保険料は自治体にもよりますが、所得のおよそ10%程度はかかります。100万円の配当所得を総合課税または申告分離課税で申告することにより、年間約10万円上がることになります。中学生以下の子供がいて児童手当をもらう場合でも、所得制限を超えると、月15,000円(3歳未満、または第3子以降で小学生以下)もしくは10,000円が5,000円に減らされます。配当所得を申告したために児童手当が減らされるケースも考えられます。児童手当以外にも、自治体からもらえる「○○手当」「○○給付金」といったものは、住民税で申告した所得が影響しますし、支払うものですと認可保育園の保育料も申告所得に左右されます。

申告分離課税が有利と考えられる場合

住民税で選ぶべき有利な申告方式住民税で総合課税が有利になるケースはありませんが、申告分離課税で有利になるケースはあります。所得税と同じように、3年前までの上場株式等の損失があるケースです。

所得:給与所得 1,080万円 (年収1,300万円に相当)
上場株式等の配当所得 100万円
(所得税及び復興特別所得税153,150円・住民税50,000円が徴収されている)
上場株式の売買損失(3年前の繰越分) 50万円
(同じ年の損失)   50万円
所得控除:社会保険料控除142万円

所得税における申告方法においても同様のケースを紹介しましたが、同じ年にも損失50万円が発生しているケースです。住民税も50,000円の全額が給与所得にかかる住民税から差し引かれます。また「総所得金額等」と呼ばれる(所得控除前の)所得合計も、1,080万円+(100万円―50万円―50万円)=1,080万円と申告不要制度を活用した場合と同じになります。

住民税における計算結果の比較

所得税の場合は国税庁の「確定申告書作成コーナー」https://www.keisan.nta.go.jpで有利不利が判定できます。住民税の場合は、自治体によっては税額試算システム(例えば千葉県浦安市の場合http://www.tax-asp.e-civion.net/tax-project/tax/urayasu_top.html)がありますので、配当を全く入力しない(申告不要)、総合課税の配当欄に入力、分離課税の「上場株式等の配当等」欄に入力の3パターンで税額を比べて、最も有利なパターンで申告すればよいのです。社会保障への影響に関しては、税額試算結果における「総所得金額等」「合計所得金額」を見て、一番低くなる方式が有利であると言えます。

損失の繰越控除と相殺するにあたっての注意点

ところで「総所得金額等」と「合計所得金額」、意味するものが同じようで紛らわしい用語です。この2つの違いは、配当所得を申告するにあたって十分に意識しておく必要があります。申告分離課税が有利になるケースの計算例は、総所得金額等が申告不要制度と変わらないのですが、合計所得金額は必ずしもそうではなく過去の損失を考慮しません。上記の例では、1,080万円+(100万円―50万円)=1,130万円となり、申告不要制度を活用した場合より50万円増えます。多くの社会保障制度では、繰越損失を考慮した総所得金額等がベースになりますが、65歳以上の介護保険では、合計所得金額を所得基準として参照する傾向にあります。繰越損失が考慮されなかったことで、介護保険を利用して介護施設を利用している方はサービス費が倍になったり、市区町村に介護保険を払っている方は保険料が上昇したりする可能性もあります。個人の合計所得金額が160万円以上で、かつ世帯の合計所得金額+公的年金等控除額が単身世帯280万円以上、2人以上世帯で346万円以上の場合は、介護保険負担割合が2割となり、原則1割から倍増します。2割負担を極力避けるようにするためには、合計所得金額を下げるために申告不要制度を活用したほうが得策です。このようなことがあるので、「総所得金額等」と「合計所得金額」は両方を意識して確認しておいたほうが良いです。もう1つ合計所得金額が大事なのは、扶養家族の対象になるかです。平成29年の所得が下記のようになっているパート主婦を想定します。

・給与所得:30万円
・上場株式等の配当所得:50万円(所得税が76,575円、住民税が25,000円徴収されている)
・上場株式等の繰越損失:50万円(平成28年の損失)

配当所得を申告しなければ、合計所得金額が30万円となります。合計所得金額38万円以下の親族は、控除対象配偶者もしくは扶養親族とすることができます。夫はサラリーマンであるとして、夫の所得から一定額(原則、所得税計算上は38万円、住民税では33万円)を差し引くことができます。配当所得を繰越損失とともに申告分離課税で申告した場合は、徴収されていた税は還付対象となりますが、所得合計に注意です。総所得金額等は繰越損失を考慮し30万円となりますが、合計所得金額は繰越損失を差し引くことができず、80万円となります。妻が申告した場合は、夫は妻を控除対象配偶者とすることができず、自身の所得から一定額を差し引くことができなくなります。

この話は、さらに手当の所得制限にも影響します。児童手当の所得制限ですが、大黒柱の基準所得(総所得金額等から一定範囲の所得控除を差し引いた金額)が622万円+扶養親族等の数×38万円以内でとあることが求められます。子ども(扶養親族)が1人で、夫の基準所得が680万円であったとします。子どもの他に、妻も扶養親族等(控除対象配偶者)に当てはまるのであれば、基準所得680万円<所得制限622万円+2×38万円=698万円ですので、児童手当は満額もらえます。しかし妻が扶養親族等でないとすると、基準所得680万円>所得制限622万円+38万円=660万円ですので、児童手当は月5,000円に減額されます。妻が配当所得を申告するかしないかで、児童手当が年6万円もしくは12万円変わってきます。

投資家にとっては、投資で利益を出し配当でさらに儲けるのが重要です。ただ投資に関わる税制は選択肢があり、さらにその選択で税額だけでなく給付金まで変わるところが特徴的です。投資は確実に儲かる保証はありませんが、税制に関しては試算ができれば損得の判断はできます。給付金まで見据えて税制を理解しておくことが重要です。