中国の株式市場と香港
社会主義でありながら資本主義経済の市場原理を取り入れている中国には3つの証券取引所があります。本土市場の上海と深圳の2箇所であり、香港市場の香港証券取引所です。そのうち外国人投資家が直接本土市場の株式投資をすることは極めてまれです。本土市場はA株市場とB株市場に分かれており、A株は中国国内向けなのに対し、B株のみ外国人投資家が投資できるからです。ただ、1,200銘柄を超えるA株市場に比べると、B株市場は110銘柄ほどしかなく、投資対象としては非常に選択肢が狭くなっています。
香港市場はH株とレッドチップに分かれる
外国人投資家が中国株の投資をしようとすると、海外に門戸が開かれた香港証券取引所がメインです。香港市場の株式は企業の形態によってH株とレッドチップの2つに大きく分けることができます。
H株は中国本土の企業が香港市場に株式を上場しているものです。その特徴は中国本土のインフラに関わる国有企業が大半ということです。電力会社や鉄鋼会社など国の経済の根幹を担う企業が海外の資金調達をするのに使われています。H株は中国本土の法律が適用されます。
レッドチップは中国の資本が30%以上含まれる企業が香港やタックスヘイブンの国々に登記している株式です。法律や会計は登記先に従って運用されます。成長性が高く収益性の見込める優良株をブルーチップと呼びますが、中国株式の分野でブルーを中国の赤色に代えてネーミングされました。
外国人投資家にとっての香港市場と香港の株価指数
共産主義の中国でありながら香港では自由な資本取引が行われており、ヨーロッパやアメリカの投資家による売買が目立つ市場です。香港市場は歴史的な経緯からイギリスの証券制度をもとに作られました。中国市場のなかにあって投資情報の入手や株式取引が英語で簡単にできるのも人気の秘密です。世界的なマーケットを形成している香港市場ですが、中国本土の政治動向や経済政策などに大きく影響を受けます。また、投資家の割合がヨーロッパやアメリカに多いことから、ニューヨーク市場やロンドン市場の値動きによる影響が大きく、世界的な規模で投資情報を集めることが大切です。
香港市場の相場をつかむにはハンセン株価指数、H株指数、レッドチップ指数の3つの指数をチェックする必要があります。
・ハンセン株価指数
香港株式市場の時価総額の約70%の銘柄で構成されており、相場動向を知るもっとも重要な指数です。香港証券取引所の登録銘柄のなかから主要50銘柄を厳選して株価指数としています。
名前の由来は恒生銀行グループのハンセン・インデックス社による指数であることで、中国語では「恒生指数」と書きます。
ハンセン株価指数で選ばれている銘柄は香港経済の基盤となる大手企業が並んでおり、その分野はインフラ企業から金融、商工業まで多岐にわたります。
インフラ系銘柄
中華電力、長江実業、中国石油化工、中国石油天然気、中国移動通信(チャイナモバイル)など
金融系銘柄
HSBCホールディングス、ハンセン銀行、東亜銀行、中国銀行など
このほか、レノボグループやキャセイパシフィック航空といった日本でもお馴染みの中国企業のほか中小株であるレッドチップ銘柄も見られます。
・H株指数
香港市場で取引される中国本土の銀行や石油関連企業から主要な40銘柄を選んで算出される株価指数です。ハンセン指数との違いは中国登記の企業であること、銀行や石油の企業の割合が多いことです。
代表的な銘柄には中国工商銀行や中国建設銀行、中国石油天然気(ペトロチャイナ)や中国石油化工などがあり、青島ビールやチャイナ・テレコムといった日本でも知名度の高い企業もあります。
・レッドチップ指数
香港株の成長性や収益性が高い優良銘柄「レッドチップ」のうち25銘柄で構成されています。中国移動(チャイナモバイル)や中国海洋石油(CNOOC)など時価総額の大きい通信系や石油系銘柄が目立ちます。
上昇トレンドの香港株式市場注目の香港株3選
2016年2月から続くハンセン株価指数の堅調な推移からも、香港市場が活気づいていることがわかります。香港株式市場が好調な理由はどこにあるのでしょうか。
・流れ込む中国資金
もともと中国本土市場と香港株式市場とは相互取引ができませんでしたが、2014年11月に上海市場との間で取引が可能になりました。ほどなく2015年8月から中国政府は人民元の切り下げを行ったため、人民元建ての資産価値が下がり、これが中国人投資家の香港株投資へと火を付けます。2016年12月には深圳市場との相互取引もスタート。中国本土投資家による香港株購入は右肩上がりで伸びています。
香港株で人気が高いのはインフラ株やIT株です。中国の巨大経済を支えるジャンルなので時価総額が高く今後も成長が見込めます。ここでは香港証券市場で取引される銘柄のうちおすすめのものを5つご紹介します。
・中国交通建設(01800)
中国本土はもとより世界各地の交通インフラ建設を行う大手企業です。港湾整備や道路・橋梁建設、鉄道敷設に強みを持っています。港湾部門では中国本土で約7割のシェア、港湾機械では世界の約8割をシェアするゼネコンです。また、海外事業に力を入れており、2016年11月には初めてEC圏内での港湾設計の契約締結により、ヨーロッパでの業務拡大が予測されます。2017年8月にはマレーシアでの鉄道敷設計画が着工しました。「一帯一路」と呼ばれるシルクロード経済圏構想の一環で、中国政府の肝いりで進展する大規模プロジェクトです。
・中国鉄建(01186)
主幹事業である鉄道建設のほか道路や橋梁建設に定評があり、中国本土のほか78カ国に進出する大手インフラ企業です。売上のうち8割超が工事請負で占めています。インフラ整備を通した景気対策を推進する中国政府の政策を受けて、大規模な鉄道や地下鉄の敷設計画が決まり、今後年単位での安定した売上が見込めます。海外進出も目覚ましく、2017年にはナイジェルアでの鉄道敷設工事を受注、アフリカでの事業拡大も進んでいます。
・テンセント(00700)
インターネット関連企業では中国最大規模、アジア最大級の時価総額を誇ります。上場は2004年。売上も株価も右肩上がりで成長を続けています。上場当初の2,004年11月は約5.8香港ドルでしたが、2,017年10月現在なんと約347香港ドルでおよそ60倍の株価にまで膨らみました。
業務内容は中国版「LINE」のメッセージアプリ「WeChat」を中心にオンラインゲームやビデオ、音楽などのデジタルコンテンツの提供が有名です。しかし、全体の売上の約7割はゲームによる課金システムで稼いでいます。今後は、現金からスマホ決済に移行する中国市場でのモバイル決済のシェア拡大を狙っています。
香港市場は世界経済との連動性が高いことがポイント
香港株式市場は中国本土を背景にしているため中国政府や中国経済の影響が強いと思われがちです。しかし、実際には香港市場の主要株価指数であるハンセン株価指数の推移からも見えるように、ニューヨーク市場やロンドン市場、米ドルの動きに連動しています。欧米の海外投資家による投資意欲がそのまま現れることに注意しましょう。
これからの香港株式市場の見通しは安定した上昇傾向が予測されます。米国株から世界的な分散投資の動きがあるため、香港株もその投資先の候補に考えられるからです。
こうした世界的な経済の流れを追い風としながら、中国本土からの資金流入の加速によってますます香港株式市場は盛況となるでしょう。