地政学的リスクの際のリスクオフ

2017年に入ってから株価は大きく乱高下しましたが、長い目で見てみれば株価は民主党政権時代の1万円割れを底値に上昇の一歩をたどっています。なぜ今年に入ってから株価が乱高下したかというと、そこには地政学的リスクの高まりが背景にあったためと思われます。地政学的リスクが高まると、資産を株として保有しておくのではなく、一度現金化しておこうという心理状況になるため、自然と売りが優勢となり下落に転じます。株取引を行う上で、頭の片隅に絶対に入れておかなくてはいけない「地政学的リスク」と2016年末に就任したトランプ大統領を結び付けながらリスクオフについて検討していきましょう。

トランプ大統領就任の影響

アメリカの大統領選が行われた際に、日本での報道も現地での報道もオバマ氏の政策をそのまま受け継ぐ形のクリントン氏の当選がほぼ明確と扱っており、選挙が行われた際も日経は上昇基調となっていました。しかし、開票が進み、過激な発言や政治経験のないトランプ氏が優位な状況になっていくにつれ株価は下落し、当選が確定した瞬間には、日経平均も前日と比較して900円以上の値下がりを見せました。

しかし、翌日にはその破天荒な性格から世の中を変えてくれるかもしれないという期待の高まりから円高から円安へと変わり、株価も選挙前の状況に戻す展開となりました。その後は、トランプ大統領の就任をめぐるロシア政府の疑惑や政治経験の無さから生じる政策の薄さなどが際立ち、株価が乱高下する日々が続きました。トランプ大統領の感情にまかせた発言や計画性のない発言が周囲の反感を買い、それに伴う求心力の低さが露呈されるようになりました。しかし、最近では、その状況に国民も慣れたのか、株価の乱高下はなくなり、むしろ史上最高値を更新し続けています。

地政学的リスクの影響

トランプ大統領が誕生したことによって、協調というスタンスから世の中が変わり始め、過激派の躍進が目立つようになります。イギリスでもEU脱退が確定、フランス大統領選挙でも極右の国民戦線が躍進するなど現状を打破したいという思いによって情勢が不安定になる国が多く発生しました。大きな選挙が相次いだことと、将来の予測ができない過激派の躍進によって地政学的リスクが高まり、株価は乱高下することになりました。

それだけでなく、2017年に入ってからは北朝鮮の金正恩総書記が弾道ミサイルの発射や核実験を行うなど世界を震撼させるような行動を頻繁に行ったことによって地政学的リスクが高まり、株価が乱高下することになりました。それに対する制裁をトランプ大統領が発表し、金正恩総書記が反発するなど危機感がさらに高まり、株価も乱高下を繰り返していましたが、ここ最近はNYダウが史上最高値を更新し、日経平均もここ数年の最高値を更新し続けています。しかし、ただでさえ利益確定売りが起きやすい状況に、さらなる地政学的リスクが生じた場合には一気に売りが加速するため注意が必要です。

有事の場合の円買い

有事とは地政学的リスクの高まりに伴って、戦争やテロなどが発生しそうな状況のことを指しますが、昔から「有事の場合の円買い」と言われているように、地政学的リスクが高まった場合には、国が発行している円や米ドルなどの法定通貨の中で、比較的安全(安定)資産と言われている円が買われやすくなるという状況があります。結果的に、円が買われるということは円高の状況に傾いていくことになります。日経平均は円安に対して上昇しやすく、円高に対して下落するという性質があります。

円安というのは円の価値が下がったような場合のことを指しますが、例えば、1ドル100円だったのが1ドル120円になったような場合には、一見100円から120円に上がったように感じますが、実際には1ドルと交換するのに100円ではなく、120円必要になることになります。貨幣価値が下がったからと言ってデメリットばかりが存在するわけではなく、円安のメリットは輸出に有利になることです。例えば、100ドルの商品を販売した場合に、1ドル100円と1ドル120円では、現地の人にとっては100ドルに変わりはありませんが、ドルから円に換算する場合には、1万円だったものが1万2千円になったことになります。円安のデメリットは輸入や海外の商品を購入する場合に不利になることです。例えば、100ドルの商品を購入した場合に、1ドル100円の場合には1万円で購入できるものが1万2千円になったことになります。

円高というのは円の価値が上がったような場合のことを指しますが、例えば、1ドル100円だったのが1ドル80円になったような場合には、一見100円から80円に下がったように感じますが、実際には1ドルと交換するのに100円ではなく、80円必要になることになります。貨幣価値が上がったからと言ってメリットばかりが存在するわけではありません。円高のメリットは輸入や海外の商品を購入する場合に有利になることです。例えば、100ドルの商品を購入した場合に、1ドル100円と80円では、現地の人にとっては100ドルに変わりありませんが、ドルから円に換算する場合には、1ドル100円の場合には1万円になり、80円の場合には8千円で購入できることになります。円高のデメリットは逆に輸出する場合に不利になることです。例えば、100ドルの商品を輸出した場合に、1ドル100円の場合には1万円で販売できるものが8千円になったことになります。

その他の円安・円高の要因

地政学的リスクの高まりに対して「有事の場合の円買い」が行われることがわかりましたが、その他にどのような円安・円高の要因が存在するのでしょうか。円安になりやすい要因として、日本の金利が下がる、ドルの金利が上がる、アメリカの景気が良くなる、アメリカの財政懸念が落ち着く、株価が上昇するなどがあります。円高になりやすい要因として、日本の金利が上がる、ドルの金利が下がる、アメリカの景気が落ち込む、アメリカの財政赤字が膨らむ、株価が落ち込むなどがあります。

地政学的リスクの高まりによって「有事の場合の円買い」が生じた場合には、円高になり株価が下がります。1ドル250円の円安が発生しており、良質で低価格の日本製品を買おうという流れが海外で強くなったことから輸出関連の企業の利益が高まり、バブルが発生しました。しかし、その状況に危機感を感じたアメリカが、円安の状況を円高に一転させ1ドル150円になった結果、輸出企業の売り上げが低迷し、バブルが崩壊する結果となりました。

有事に備え、目の前の情勢を理解しておく

その頃のように極端な円安や円高が進行することはありませんが、やはり円高が進行することは株取引の世界では「良し」とすることはなく、輸出関連株を中心に売られることになり、株価が下落します。それゆえ、株取引を行う際には地政学的リスクが高まりそうなイベントを事前にきちんとチェックしておく必要があります。例えば、弾道ミサイル発射や核実験の実施の可能性が高まる北朝鮮の式典や記念日、あるいはアメリカの式典や記念日にも「祝砲」という名目で挑発を行う可能性がありますし、各国の大統領選挙の日程なども把握しておくべきでしょう。

実際に有事が発生した場合には、株価は今の2~3割下落すると予想しているアナリストもおり、今の株高の状況を考えると、少しの情勢不安が狼狽売りを誘う可能性が高くなっています。世界の情勢をきちんと把握することでリスクを軽減し、安定した取引を行えるようにしましょう。