株式併合が株主にとってマイナスにはならないその理由

最近新聞の経済面企業短信でよく目にする株式併合の告知。持ち株が増える株式分割が明るいイメージなのに対し、持ち株が大きく減少する株式併合は株主にとってマイナスのイメージで見られがちです。そこで今回は、企業が相次いで株式併合に踏み切る背景と、本当に株主にとってマイナスになるのか、徹底検証します。

企業が株式を併合する理由とは?

株式併合実施の目的は大きく分けて二つあります。一つ目は管理コストの削減です。増資を繰り返し、株主数が過剰になった企業が、株式を併合することによって発行済み株式数を減らし、事務手数料を削減することができます。実際、投資家の皆さんはご存知の通り、株主になると決算報告書をはじめ、株主総会招集通知、配当金振り込み通知ほかさまざまな郵便物が送付されてきます。これに株主優待実施企業は自社商品なども送付しなければなりません。この経費も企業にとってはかなりの負担です。仮に10株を1株に併合すれば、発行済み株式数が10分の1になるため、単元未満となった端株を買い取り請求する株主も出て、株主数の減少につながります。同時に1株純資産も10倍となるため、数字上企業価値を向上させることができます。

そして、もう一つが売買単位の適正化です。これまでは売買単位(単元株数)は企業の自主判断に任されていましたので、1株の企業もあれば100株、1,000株の企業もあり、銘柄間の比較が複雑でした。例えばかつて家電量販店のビックカメラが1株、ヤマダ電機が1,000株という売買単位の時期がありました。これでは投資家は適正な比較ができません。2017年10月3日現在ではともに100株単元となり、ビックカメラが1,262円、ヤマダ電機が610円でビックカメラの株価水準の方が高いことがわかります。

では、なぜここへきて株式併合を実施する企業が増えたのでしょうか。その理由は、全国の証券取引所が2007年11月27日に打ち出した「売買単位の集約に向けた行動計画」に応じたことによるものです。この計画では2018年10月1日までにすべての上場銘柄が売買単位100株に統一されることになっています。この改革によって、投資家は各銘柄の売買単位を調べる必要が無く、簡単に最低投資額を計算することができます。

株式併合が株価に与える影響は?

さて、株式併合が行なわれた場合、株価はどうなるのでしょうか。前述したように、株式数が減った場合、反比例して1株あたりの株価指標は上昇します。5株を1株に併合の場合は、1株純資産や配当金も5倍になるので、それを織り込んで株価もその水準に近づいていきます。では、実際に株式併合が行なわれた銘柄がどのような株価の動きを示したかを具体例をあげて見てみましょう。

【最近実施した株式併合の例】

●石塚硝子 10株を1株に併合  2017年9月14日権利付き最終売買日、21日効力発生
14日終値238円→15日終値2,389円→20日終値2,335円→21日終値2,309円

●モロゾフ 10株を1株に併合  2017年7月26日権利付き最終売買日、8月1日効力発生  26日終値644円→27日終値6,590円→31日終値6,820円→8月1日終値6,840円

石塚硝子は権利落ち翌日の株価は、理論株価2,380円に対し2,389円で9円高。効力発生日前日の株価2,335円に対しては効力発生日2,309円で26円安となりました。全体的には株式併合で株価は冴えない展開となっています。一方、モロゾフの権利落ち翌日の株価は、理論株価6,440円に対し6,590円で150円高と急騰しました。効力発生日前日の株価6,820円に対しても効力発生日6,840円で20円高としっかりです。こちらは逆に株式併合で株価は上昇に向かいました。

こうしてみると、株式併合が必ずしも株価にマイナスになるとは限らず、モロゾフのように業績が良ければ上昇に向かう例もあります。ですので、株式併合を気にするよりは、個別企業の業績をしっかり見極め、投資することが重要といえます。

株式併合によって株価水準が大きく変わった場合、年初来高値・安値の基準はどうなるのでしょうか。この指標に関しては、株式分割と同じく権利落ち後にリセットされて、新たに併合後の高値・安値で表示されるようになります。したがって、実質的な水準は変わらないので、併合前の高値・安値をわざわざ調べる必要はありません。むしろ併合以前に掲載された「会社四季報」で過去の株価を調べた場合は、とんでもない値上がりを記録して現在の株価になったと勘違いする危険もあります。ひとケタ違うような株価になっていた場合は、併合や株式分割の有無を確認することが大事です。

売買単位の引き下げは出来高にプラスとなったのか?

最近流行の株式併合と売買単位統一の改革がもたらすものとは?もうひとつの注目点である、出来高の推移はどうなったのでしょうか。上記2社の権利落ち前平均5日間と権利落ち後平均5日間の数字で比較してみましょう。

●石塚硝子
9月8日~14日 1日平均65,000株
9月15日~22日 1日平均 7,820株
調整後出来高の比較では、20.3%出来高が増加しました。

●モロゾフ
7月20日~26日 148,800株
7月27日~8月2日 14,380株
こちらは逆に3.7%減少しました。

もちろん、石塚硝子は2千円台、モロゾフは6千円台と、株価水準が違うので、一概に比較できないのですが、売買単位が100株になったからといって、出来高が急増するわけではないことがわかります。これは、1,000株600円の株も100株6,000円の株も投資額は60万円で変わらないため、売買単位が10分の1になっても、投資家の負担が減ることにはならないからです。

持ち株がもし併合になったらどうする?

では、自分の持ち株が併合になったら、どう対処したら良いのでしょうか。気になるのが、株主優待はどうなるのかですが、株主優待は贈呈株数基準を変更して継続されます。

【株主優待贈呈基準変更の例】東映(2017年10月1日に10株を1株に併合)
・変更前 1,000株以上 優待券綴り1冊
・変更後 100株以上 優待券綴り1冊

映画館の招待券がもらえる東映のケースで見ると、1,000株持っている株主の場合、保有株数は100株に減りますが、贈呈基準株数も100株からになるので、実質的なマイナスはありません。また、配当に関しては併合の比率に原則正比例して増額されるので、こちらもマイナスにはなりません。ですので、長期保有方針の銘柄については、株式併合実施を理由にあわてて売却する必要はないということです。

売買単位の統一完了後、国際的評価の高まりに期待

さて、ここまで株式併合について見てきましたが、証券取引所が進める売買単位の統一は、国内投資家の利便性向上だけでなく、海外からの投資呼び込みも期待されています。これまで日本市場の売買単位は最も多い時期で8種類(1、10、50、100、200、500、1,000、2,000)もの単位が存在していました。これは国際的に見ても異常な状態で海外投資家から「わかりにくい」との声があがっていました。2018年10月1日をもってすべての銘柄が100株に統一され、その点をアピールすれば国際的評価も高まるでしょう。海外投資家の新たな投資を呼び込み、株式市場の一層の発展につながることを期待したいものです。

<【株式併合が株主にとってマイナスにはならないその理由】最近流行の株式併合と売買単位統一の改革がもたらすものとは?>まとめ

1.持ち株は減少するが、株式の価値に変化は無い。
2.10株を1株に併合する場合、原則として配当は10倍になる(その他の比率も正比例して配当が増額調整される)。
3.株主優待の贈呈基準は変更されるが、ほとんどの場合実質的なマイナスは無い。
4.年初来高値、安値は併合後の数字で表示される。
5.株価は個別企業の業績が材料になるので、株式併合がマイナスというのは単なるイメージに過ぎない。

株式投資市場も国際化が進み、もはや日本だけの基準では通用しなくなってきました。売買単位の統一はまだほんの始まりに過ぎず、海外投資家の新たな投資を呼び込むためにも、まだまだ改革すべき点は多く残っています。日本の株式市場は世界中から注目されていますので、企業と投資家がさらに活発的に行動する事が求められてきているのです。