株式投資で値下がりよりも心配なのが上場廃止です。倒産はもちろんのこと、完全子会社化や吸収合併による廃止、有価証券報告書虚偽記載による上場基準抵触などケースはさまざまです。今回は、持ち株がどのようなケースで上場廃止になるのか、代表例をあげご紹介します。
倒産なら100%減資で株式価値ゼロに
上場廃止に至るスタンダードなケースが、会社更生法や民事再生法の適用を申請する、いわゆる倒産です。代表例としては、超大型倒産として知られる日本航空の経営破綻。2010年に負債総額6,715億7,800万円を抱え、会社更生手続きの開始を申請。グループ3社の総負債は2兆円を超える巨額なものでした。最終売買日の終値は1円で、株主優待やカレンダーの配布も廃止され、株主にとっては最悪の結果となりました。
その後日本航空株は再上場されましたが、ここで疑問になるのが、上場廃止直前に買った株はどうなるのかという点です。有効なら再上場で大儲けも可能ですが、旧株は100%減資(無価値化)ですでに新会社に再生されていますので、旧株を取引することはできません。倒産の場合株式価値はゼロになると考えて良いでしょう(稀に99%減資で100分の1だけ価値が残る場合があります)。倒産のニュースが出たら即刻1円で指値売りを出します。1円で出すのは売値が低いほど優先して売買が成立するからです。日本航空の場合、廃止決定翌営業日の寄り付きが2円でしたので、上手くその価格で売れれば儲けものくらいに考えましょう。
虚偽記載で廃止なら無価値にはならない
倒産に至るような業績悪化銘柄と違い、予測不能なのが有価証券報告書の虚偽記載による上場廃止処分です。代表的な例がライブドアと西武鉄道のケース。ホリエモンこと堀江貴文氏率いるライブドアが2006年に証券取引法違反容疑で本社や堀江氏の自宅が家宅捜索を受ける事件が発生、経済事件史上に名高い「ライブドアショック」が起こりました。東証マザーズを中心に株式市場が大暴落し、ライブドア関連銘柄のほとんどがストップ安になる事態となったのです。ライブドアは上場廃止後、韓国のIT企業NHNに買収されています。
また、西武鉄道は有価証券報告書の虚偽記載で上場廃止基準に抵触し、2004年に上場廃止となりました。
上場廃止銘柄を掴まないための予防策は、日頃から経済ニュースや決算報告をこまめにチェックすることですが、虚偽記載は突然発覚するため、あらかじめ予測できないのが難点です。ただ、倒産と違い株式が無価値になることはありません。それが証拠にライブドアの最終売買日の終値は94円でしたし、西武鉄道に至っては485円と普通の株価水準を維持して終わりました。再上場の可能性を期待しての買いが入ったためです。西武鉄道はその後西武ホールディングスという持ち株会社として約10年後の2014年に予想通り再上場を果たしています。
ただ、非上場となって市場で売買ができない以上、実質的には無価値と同じと主張する意見もありますが、当てはまる場合とそうでない場合があります。
ライブドアは無配でしたし、株主優待も無いので保有しているメリットは何もありません。再上場の可能性もほとんどないことから、整理ポストにいるうちに売却しておくべきケースです。
一方の西武鉄道は有配株で、非上場の期間も株主優待は実施していました。再上場への意欲も表明していたことから、優待と配当が目的なら継続保有で正解だったといえます。
ただし、保管先は信託銀行となりますので、証券会社の預かり資産としては減少します。西武ホールディングスとなり新たに証券会社の特別口座に入れる場合には、改めて名義書換が必要など面倒な点もあります。
TOBとMBO
上場廃止は業績悪化や法令違反が発覚した場合だけとは限りません。経済番組を見ていたら、ある日突然投資している会社がTOB(株式公開買い付け)やM&A(企業の吸収合併)を受けて、子会社化されることになったというのは珍しくない話です。つまり、持ち株が業績好調であったとしても決して安心はできないということなのです。コーヒーチェーン大手、スターバックスコーヒージャパン(以下、スタバ)が米国スタバ本社からTOB を受け、上場廃止になったのは記憶に新しいところ。TOB価格は1,465円でした。発表後の高値が1,464円、売買最終日の終値は1,459円でTOB価格を下回っていますので、粘っても意味がありません。素直にTOB価格で買い取ってもらう方が得策です。もし、最終売買日までに売却しなかった場合は、TOB価格で強制的に買い取られることになります。スタバの株価を支えていた人気の株主優待も廃止されました。数ある上場廃止の中でももっとも惜しまれた銘柄の1つです。
もう一つ、業績好調でも上場廃止になるケースがMBO(経営陣による買収)です。これはおもに敵対的買収を防止するために使うM&Aの手法の一種で、経営陣が株主から自社株を買取り非公開企業になるというもの。有名な企業の例では、すかいらーく、カルチュア・コンビニエンスクラブ、スシローなどがあります。すかいらーく、スシローはその後再上場し、株主優待株として人気を博しています。MBOの場合、非上場になる以外に企業価値の変化はないため、最終売買日でもそれほど株価の下落はありません。ですが、株主が大株主のみの構成となるため、株主優待は廃止されます。再上場するケースは多いですが、ある程度の年数を要しますので、いったん売却して、再上場したら買い直すスタンスが良いでしょう。
債務超過の東芝は上場廃止となるのか?
現在、上場廃止になるか否かでもっとも行く末が注目されているのは東芝でしょう。すでに東証2部に降格となり、1部上場企業の座からは転落しています。東芝は倒産の一歩手前の債務超過という状態にあり、これも上場廃止基準の一種です。連結決算において2年連続債務超過となった場合は上場廃止処分を受けます。東芝に関して2017年9月13日現在の最近の状況では、半導体子会社東芝メモリの売却について、産業革新機構(日本)、ベインキャピタル(米国)、SKハイニックス(韓国)の日米韓連合と9月下旬に契約締結を結ぶことが決定しました。ただ、かねて新日米連合の交渉先の一社だったウエスタン・デジタルが反発を強めており、締結までには紆余曲折も予想されます。
2017年3月期末現在の債務超過額は5,816億円。東芝メモリの売却額が約2兆円とされていることから債務超過を解消できる目途が立ったことで、上場維持の可能性が高くなったと考えて良いでしょう。なお、債務超過イコール倒産ではないので、東芝が仮に債務超過のまま上場廃止になっても、金融機関が融資を継続すれば経営は可能で、無価値にはなりません。とはいえ、西武鉄道とは経営状況がまったく異なりますので、上場廃止が決まった場合は即売却が無難です。
上場廃止予備軍に対する東証からの警告に注意
さて、以上がおもな上場廃止になるケースと対策ですが、東京証券取引所も廃止になるリスクが大きい銘柄に関しては、投資家にヒントを出して警告しています。それが「疑義注記」あるいは「企業の継続前提に関する重要事象」という項目です。「会社四季報」のコメント欄を読むとよく目にする言葉ですね。売上高の急激な減少や、継続的キャッシュフローのマイナスなどの理由で、企業としての継続に疑義がある場合に決算報告書に注記するよう義務付けられています。これらの注記が付いている銘柄に関しては、新規の投資は控えた方が安全といえます。すでに保有している銘柄に注記が加わった場合は、損失が拡大しないうちに早めに処分することが肝要です。
まとめとしては、西武鉄道やすかいらーくのように再上場するケースはごく少数なので、上場廃止銘柄はいったん売却し、新規投資の資金とすることをおすすめします。