米朝開戦の地政学的リスク米国と北朝鮮の対立が緊迫感を増しています。対立激化の発端は北朝鮮が米軍基地のあるグアム島へのミサイル発射を行なう計画を発表。これに対し、米国のトランプ大統領が「グアムにミサイルを発射した場合は、北朝鮮に世界が見たことのない炎と激怒で対抗する」と、
開戦を示唆するような発言をしたことです。その後、一時北朝鮮がミサイル発射を自制し、事態は落ち着いたかに見えました。ところが、ここへきて新たな動きが出ており、再び緊張が高まっています。

2017年8月23日付けの「労働新聞」(北朝鮮労働党機関紙)が、1面で金正恩北朝鮮労働党委員長の国防科学院化学材料研究所の視察を報じ、その写真の中の1枚に「北極星3」の文字が写り込んでいたのです。北朝鮮側も公開する写真のチェックは入念に行なうでしょうから、その点には気づいているはず。それをあえて公開したのは、新型ミサイルの存在を米国に知らしめるための威嚇ではないかというのが、報道機関の分析です。さらに8月29日にはミサイルが日本の北海道上空を通過するなど、北朝鮮の挑発が続き、国内的にも不安が増しているのが気になるところ。

もっとも実際に戦争となれば北朝鮮に勝ち目はないわけですから、それは金正恩体制の崩壊を意味します。北朝鮮がそこまで危険な賭けをするとも思えません。今のところ米朝戦争に至る可能性は低いですが、あらゆるケースを想定しておくのが投資の鉄則でもあります。 ここでは有事に備えるためのいくつかの対策をご紹介します。

ベア型ETFの保有でリスクヘッジを

株式投資を行なう上で、もっとも心配なのが相場の急落です。個別銘柄と違い、相場全体が急落すれば業績に関係なく保有株の多くは含み損を抱えることになります。そこで、相場が急落した場合にリスクヘッジになる投資先を確保しておくことが重要です。ETF(上場投資信託)の中には、ベア型と呼ばれる銘柄があります。ベア型とは、株価指数に連動して、指数が下がれば上昇するように設計されている投資信託です。その代表がNEXT FUNDS日経ダブルインバース・インデックス連動型上場投信(証券コード1357)。この銘柄は日経平均と逆の値動きをするのが特徴です。しかも、ダブルとあるように、日経平均が1ポイント下落するごとに2ポイント上昇するので、リスクヘッジ効果も2倍となります。

人気マネー雑誌「ダイヤモンドZAi」の調べでは、2015年12月3日を100とした場合、2016年2月29日の時点で日経平均が20%下落した局面で、ベア型は20%上昇、ダブルベア型は40%上昇ときれいに設計通りの値動きを示しました。その実績からも日経ダブルインバースは有事に頼りになる投資先といえます。

有事に強い「金」も選択肢の1つ

株式と直接関係無いのですが、現物資産として「金」を保有するのも有効な対策の1つです。金は昔から有事に強い資産として知られています。特にサブプライム・ローン問題のような経済的アクシデント時には効果大で、世界的な株価下落となる中、金相場は上昇を続けました。「株はダメだからとりあえず金を買っておこう」という防衛意識が働くようです。
リーマンショック時も一時的には下がったものの、他の商品相場よりも早く立ち直って、上昇チャートに転じています。

では、戦争の場合はどうでしょうか。昔は有事の金買いを呼んだものですが、最近は米国対イラク、今回予想される米国対北朝鮮のように、特定の国同士の局地戦がほとんどで、勝敗がはっきりしているため、金相場もあまり動かなくなっています。ただし、国内相場の場合となると話は別で、日本の一部にでも被害が及ぶ事態になった場合は、株・債券を売った資金が短期的に金市場に流入する可能性は大です。専門家の間でも資産の10%程度は金にシフトしておくと良いという意見が多く見られます。2017年8月28日現在の金相場は、1g4,945円(田中貴金属工業税込み小売り価格)。直近高値は2013年4月に付けた5,084円(同)ですので、現在も高値圏を維持しています。そうなると気になるのが、今から買って高値掴みにならないかという点です。

そこでおすすめなのが、金の積み立て投資。積立額÷金価格という計算式で毎月購入していきます。相場が高い時は少なめに、安い時は多めに購入することになり、ドルコスト平均法の応用で買いコストが平均化されます。したがって、高値掴みの心配がなく、リスクの少ない投資法として注目されています。金には株式や債券のように配当・利息は付きませんが、証券会社によっては金の積み立てにポイントを付与する会社もあり、実質的に利息効果を得られるケースもあります。なお、金ETFも上場されていますので、投資信託の形で金を間接的に保有する投資も可能です。

配当利回りによるポートフォリオの見直し

開戦が確実と判断した場合は、保有資産ポートフォリオの大幅な見直しが急務となります。一時的に相場は急落し、その後一定の調整期間が必要になりますので、保有株を高配当株、低配当株、無配株に分け、まず高配当株を残します。高配当株を残すのは、利回り採算が取れるからです。定期預金の金利がゼロコンマの超低金利下では利回りが3%以上ある高配当株は、保有しているだけで十分メリットがあります。有事には無理に売却益を狙わず、着実に配当収入を得ながら相場の回復を待つのも有効な投資法です。つまり、株式を定期預金化するという考え方です。

無配株は時折仕手化して急騰することがあるため、平常時であれば大相場を期待して保有するのも手です。しかし、有事となればそれらの株も一斉に急落するため、無配株を保有しているメリットはほとんどなくなります。原則として無配株は売却し、現金化します。
低配当株は有事に強い業種の銘柄を残し、その他は売却。こうしてキャッシュフローを豊かにしておけば高配当優良株が下がったところを買い増しし、さらに利回りを高めることもできます。

国際分散投資でリスクの軽減を

最後に日頃から準備しておくリスク軽減方法として、国際分散投資もおすすめです。日本株はわかりやすい投資先ではありますが、すべて集中させてしまうと、戦争のように地政学リスクが発生した場合には損失も集中することになります。東日本大震災で東京市場が大暴落したのは記憶に新しいところ。米朝戦争になった場合は同じようにニューヨーク市場や東京市場が大暴落する可能性はあります。その時、両市場や上海、韓国などから逃避した資金が欧州株やユーロ買いに向かう可能性は大です。直接の被害が及ばない欧州に当面の資金をシフトしたいという動きが活発になるので、欧州の株や債券を一定の割合で保有しておけば、東京でのマイナス分をカバーしてくれるでしょう。特に欧州の債券は利回りも高く、円安ユーロ高の流れになれば保有メリット大です。また、投資信託の中には欧州を投資先とする銘柄もあるので、ポートフォリオに加えておくのも選択肢の1つです。

シリアやイラクを見るまでもなく、戦争は悲惨な結果を招きます。世界の経済情勢にも少なからず影響を与えるので、戦争は相場には明らかにマイナス要因となります。米朝戦争になれば近隣諸国である中国、韓国、日本の経済はかなりの打撃を受けるのは避けられません。ただし、相場に対する過度な悲観は禁物です。宗教間の対立が長期化する中東情勢と違い、北朝鮮には宗教的な背景は無いので、戦争が終結すれば、アジア経済の立ち直りは早いはずです。戦争に至らないことを願いますが、どのような事態になっても損失を最小限にとどめる対策を今から講じておくことは、決して無駄ではないはずです。